第四部

□Epilogos
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「――それで、その後は?」

 好奇心の強そうな緑の目が、エルライを見つめた。
褐色の瞳の少年が割って入る。
「決まってるだろ、プシー。お姫様はいつだって幸せに暮らすんだよ。ね? エルライ」
「そうね。それで、可愛い子供を授かるの」
子供たちの頭を撫で、エルライは優しく笑った。二人とも父母に似て、非常に整った顔立ちをしている。
「ちがうのー、それは分かってるの!エルライのお話はいつもそうだもん。
あたしが知りたいのは、どこで暮らしたとか、魔法使いがその後どうしたのかとか、そういうコト!」
「どこで暮らしたか?一緒に旅した王様の国よ」
「魔法使いは?」
「王様の国よ」
「やっぱり!でも精霊のいる森はどうしたの?」
「それがね」
当時を思い出してクスクスと笑う。
「そっくり買い取って、彼の領地にしてしまったの」
「じゃあ…」
「うるさいな!自分で考えればいいだろ?」
自分も気になっていたことを次々訊かれて少年は不機嫌になる。
「怒ってるの?アリオト」
「怒ってないよ。エルライ、お話 終わり?」
「そうね。終わりにしてもいいわよ?」
「「ヤだ」」
キッパリとしたステレオ。エルライは笑った。
「でも後は少しだけよ。

…そうして、騎士とお姫様は結婚したの。

結婚式にはお姫様の成長した姿を見ると約束した女神様もお祝いに来たわ。
魔法使いから贈られた人形のお礼に、精霊の女神様もね。
…その後、騎士は国に戻ろうか、王様の国に留まろうか迷ったけれど、結局、留まることにしたの。
魔法使いも、王様の戴冠の時の仕事を認められて、本人曰く<相応の位>で王様に仕えたの。
でも隣国の森に住んでる者が仕えるのは、おかしいって、正式に森を買い取って、魔法使いのものにしたの」

「あれ?でも森って誰の物でもないんじゃない?」
少女が目を丸くして首を傾げた。

「そうね。本当は誰の物でもないわ。でも、人間たちは世界を区切って誰それのものってするの。
不思議よね。世界が誰か特定の者の所有なんて」
「でも、世界は広いから、区切らないと、どこがどこか、分からなくなっちゃうよ?」
「ここ、あそこ、むこう、だけじゃ、ダメなのね」
あなたたちは。エルライは少し淋しそうに笑った。
「ねえねえ、それで?」
少女が話を促した。
「その後は、皆、幸せに暮らしたの。
騎士は王様に仕えながらお姫様を守り、お姫様は<証>に残った魔力を必要な時だけ使って、騎士を助け。
魔法使いは精霊と暮らして、王様に仕えて。お休みの時は自分本来の<力>で魔法を研究をしたり。
王様や王妃様も、もちろん。王子様も生まれたし。
王妃様はたまーに、魔法使いにお願いして森に帰ってきたりね。
そんな風に、皆、苦難に負けずに、幸せになったの」
「神様たちは?」
「神様たちは、お姫様と騎士の結婚式の後は、もう、現われることはなかったの」
「何で?」
「何故かしら」
「寝てたときの仕事が溜って終わらないんだ!」
少年の指摘に、エルライはつい吹き出す。
「何で笑…!」
「おーい、おチビたち、『鳥』が生まれたぞ。見るかー?」
抗議しかけたが、少年は館の主(あるじ)の呼び声に振り向き喜んでそちらの方に駆けていった。
少女も立ち上がりパタパタとその後についていく。
 エルライは、それを見送り、穏やかに笑った。

「こうして、物語は、また次の物語へ……」    


 
       




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番外編放浪詩人の日記
 

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