第四部

□誓い
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 新王と妃は、パレードの中心の輿(こし)に座す。
集まった民衆は心からの祝福を送り、花を投げ入れ、幸せな二人をさらに幸せにした。
パレードが、城に入る道にかかる。すると城門から琴にのって、祝賀の歌が聞こえて来た。
よく通る男の美声。長い銀髪、金の竪琴の吟遊詩人。
「ヴィー!」
その姿を認め、喜びのあまり輿を降りようとするアシェス。

(! 国事の最中だろ!)

新王の行動に焦り、詩人は琴弾きにだけ分かる程度に音を外す。
アシェスはハッと我にかえり、輿(こし)が近づくのを待った。
「あの人が、ヴィー?」
カイが小声で尋ねる。
「ええ。大分前に、世界中をまわる、と旅に出ていたんですけど…あれ?ヴィーの話、しましたっけ?」
「…名前だけね」
俯き、苦笑する。愉快な司祭の釘差しで上がったときと、アシェスの寝言。

(ヴィー、行かないで、私と一緒に歌っていよう)

あのとき、生まれた気持ちは、確かにヤキモチだ。

自分の二心を苦く抱きしめる。
倫理的ではない。ほめられたことではない。
それでも、確かにこの胸の内にふたつの愛情がある。したたかに。

「…大臣の息子の一人で、年が近いので、よく一緒に遊んだのです。旅立つ時には互いの琴を交換して…」
「…陛下(アーシェ)。そんな幸せそうに言われると、ヤケるわ」
冗談めかして肩をすくめる。
「私も、カイが精霊に再会したとき、嫉妬しました」
二人は顔を見合わせ、くすりと口付けを交わした。
熱い二人にワッと歓声が上がる。



「アース陛下、おめでとう」
 城に入りきってから、アシェスは輿(こし)を降りた。カイが降りるのを、二人で助ける。
「お初にお目にかかります、麗しの妃殿下。ウェズンと申します。以後、お見知りおきを」
優雅に挨拶する。カイも優雅に、叩き込まれた会釈で返す。
アシェスは何故か、カイに勧誘された時を思い出し、その格差に笑みをこぼした。
「ここじゃ何だから、控え室に行こうか」
アシェスがウェズンを誘う。
「夜の準備は?」
「私は、着替えるくらいかな」
「…それなら、お邪魔させてもらうかな。
妃殿下、陛下をお借りしてもよろしいでしょうか」
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