第四部

□精霊の祝福
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「…アシェスには悪いが、カイがこっちに居てくれて良かったな。」
 正常な動きを取り戻すリハビリには、往々にして人の手や器具の補助が必要で。
人間に戻ってなお大柄なオオドリを支えるには一人では手が足りない。
ごろりとマットレスに寝かせ、まずは筋肉をほぐすマッサージから始める。
部屋には筋肉をリラックスさせる香が漂う。
筋肉を十分にほぐした後は、オオドリ自身が意識的に動かす。
香は緊張を促進するものへと切り替えられる。
すぐにもしっかりと歩きたいのに、ユプシロンは回りくどい順で指示を出す。
寝返り、四つ這い、対角の二支点での姿勢保持、這い歩き、伝い歩き…。
それぞれを完璧に行えるようになってから、自立歩行だ、と
「赤ん坊と同じ動きから始めた方が、いきなり伝い歩きを始めるより、歩行は正常な動きを
取り戻しやすいと城の治療師が言っていたぞ。参考は麻痺者の回復方法だけどな」
専門ではないときに先達の知恵を借りるのもまた、賢き者の美徳だ。
「麻痺…?」
「骨折とか一部の欠損なら、たしかにその部分を補う動きでいいのかも知れないが、お前は、体幹の…
首の下からの動き、全てがおかしい。歪んでいる。動くにしても、細かい加減がきいてないだろう。」
確かに、出来の悪い操り人形のように感じるときがある。
「グリフィンの骨格標本はあいにく見たことがないが…、鳥類、ほ乳類、は虫類の要素を、根性で操っていた
状況よりは、シンプルなはずだ。
体にまた、動かし方をたたき込め。無心に。
体は戻ったんじゃない。生まれ直したんだと思うくらいの気持ちで。
自慢の剣技も、初心者に戻ったつもりで鍛え直せ」
「…………。」
そうか。
歩くことすらままならないなら、当然のことなのに。
己の認識の甘さに、オオドリは、鈍器で殴られた気分になる。
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