番外編

□神々の諸事情
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 神々の諸事情


 ◆魔王◆

《ボレアーリス、弟のエータと母君だ》
 神姫(しんき)が魔王の宮殿に連れてきたのは、生まれたばかりの子を抱いた金髪の女だった。
「キファ・ボレアーリスだ」
「………」
ボレアーリスが名乗ったが、女は全く反応しない。目も宙をさまよっている。
《…こういう方なので、私の宮殿では暮らしにくかろう、ボレアーリスの宮殿へ連れていくように、と》
「ラムダ! 隠居野郎に会ったのか!」
《いや。この方の首飾りに伝言があった》
女の胸元に、青い宝石が輝いている。
「チッ。オレを何だと思ってるんだあの野郎はっ!」
《…では、頼んだぞ》
「おい!」
魔王が呼び止めたが、神姫はさっさと帰ってしまう。
「………チッ」
 魔王は手を鳴らして宮女を呼び、女の着替えを命じた。女は戦禍にあった者のように、ひどい格好をしていたのだ。
「首飾りはどうなさいますか?」
「替えてもいい」
「ダ メ」
女が鈴のような声で拒否した。目を見張る魔王。
「ナクシテハ ダメ ダヨ ドコヘ イケバ ヨイノカ
ワカラナク ナッテ シマウ カラ」
「あの野郎の言葉だな。
………ここが、あんたの来るべき所だ。もう失くしても平気だ。……捨てはしない。服に合うものに替えるだけだ」
反論が来るかと待っていたが、来ないので、魔王は首飾りを外した。何の抵抗も無い。宮女たちは仕事に取りかかった。
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