第四部

□落ちる涙
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 求婚(プロポーズ)以来、婚礼の支度は、カイの行儀見習いも含めて、式典準備はトントンと進んだ。
身分の低さにも蔑視してくる様子はなくむしろ『待ちかねた』という気配にカイは引け腰になったが。
自信は培うもの、というアシェスの言葉をひとまず信じた。
そうしているうちに、できることは着実に増えていく。時間のかかることがあっても。
着慣れないロングドレスも、できるだけ軽い素材を選んでもらい、どうにか馴染みつつある。
貴族との挨拶や会食で一日に何度も着替える日もあって「何で同じ服じゃダメなの?」という疑問にも
丁寧に、重要度を認識させ、実現性を高めるための「ここで話したことは影響が大きい!守らなかったときは
非難されますよ!」と列席者に無言のうちに了解させる機能だと教えてくれた。
「共演者がいて余裕があるとき、曲によって衣装替えするようなものです」など、カイの歌姫の経験を認めた
上での教え方もしてくれる。
極端な話、パジャマ姿であくびをしながら重要な話をしたとして。
実現されず後で責めても「あ、そんな本気だったの?」と返ってきても仕方ない。
そのたとえ話を聞いて、カイは『確かに』とうなずいた。
酒場でも、べろんべろんの酔っぱらいに「明日有り金あげちゃうよ」と言われた人へ「信じるな」とあえて言う
輩がいないようなものだ。皆笑いながら「あんなこと言っちゃって」と流すのが常だ。
その、上流階級版。
その会席の格の高さや歴史を説明を加えながら、それでこの襟・袖・丈の長さ・色合い…とドレスの選び方を
丁寧に教えてくれるおかげでもある。
何も知らないでいると着せ替え人形のような気がするが、納得できれば、どうにかがんばろうという気になる。
カイの好きなミニスカートも、誰か偉い人に会う予定のない時間でロングのカーディガンを重ねれば、
好みとして認めてくれるのも、窮屈感を減らしている。
初めは借り物の衣装だったが、少しずつ、カイの体や好みに合わせたドレスも数が増えていく。
そのご予算に蒼くなるときもあるが。
相手と格を合わせないと非礼として国際問題に発展することもあると言われれば「お願いします」と頷かざるを
得ない。
予算は税金なのに…と心配すれば「それをご承知いただいてるので」と頷く。質素過ぎず、華美に過ぎずを
心がけてくれてるそうだ。少女の方は、着せ甲斐がある、と何かと加えたがるが。
「それから、カイ様に仕立てたドレスを着ていただくと、異国の方からの注文が増えると仕立屋が喜んでおりました」と
需要と供給、相場の変動、時機と質。『経済の活性』まで、説かれる。
折々に、妃としての教育を混ぜられた。



そして今日もまた、仕立て屋に身を預ける時間が設けられた。
花嫁のヴェールが地に着かないよう付き添うページ役を頼まれたリューも、一緒に採寸を受ける。
本来は別々にすることだが、一緒がいいとカイがリクエストした。
リューはリューで、魔術師として手伝う事は絶えないらしく、あえて用を作らないと会いにくくなっていた。

「あ! それ、あの時のお花だよね?」
脇に置いてある花に気付いて、アルファが尋ねた。
カイのウェディングドレスはすでに仮縫いの段階に入っている。
「うん…。不思議と枯れないから、ドレスにも使おうと思って」
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