第一部

□T-3 ケンカ腰に話す件
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「オオドリ君・・・」
カラカラになった口で、リューが呼びかける。
「どの辺から、いたの?」
「・・・召喚の頃からだ」
居心地が悪そうに答える。
「しかし、訳がわからん」
それは、嘘ではない。
「・・・そう、だよね」
少しだけ安堵したように、胸を押さえる。
女神はオオドリを見、リューの髪を撫でた。
《ともに旅する者に、教えないのか?
己の正体を》
「・・・正体・・」
女神の言葉を、オオドリが繰り返す。
それは・・・
「ラムダ!」
リューが、いさめるように女神の名を呼ぶ。
女神は聴かない。
《そう。アルファ・リュンキス。神に近い魔術師・・・》
「やめて、言わないで、まだ言えない、
まだ、怖い」
哀願しても
《常葉の非人・・・》
「ラムダっ!」
金切り声が、空気を裂く。
空間が歪んだ。
そこに居合わせた者は、違和感に吐き気を覚えた。
歪みが消えた後には、女神の姿は消えていた。
本来の世界に、強制的に帰したのだ。
「あ あ あ〜〜〜〜!!お嬢ちゃん!
大姫様を帰しちまったら俺らが・・・っ!」
人狼の非難に、リューはギンッと眼光を飛ばす。
女神に哀願したときのような雰囲気は、完全に、無い。
「・・・お嬢ちゃん、もしか、キレてる?」
怯えたように尋ねる。返事の代わりに、呪文が紡がれた。

《流れる理のもとに》

魔術師の『証』を握りしめ、集中のあまり蒼白になって。

《大姫に仕えし大口真神
その命果たしたるゆえ、その力に依りて
真神を 御許へ》

『証』を天へ放り上げると、風が巻き、地が再び揺れた。
それが収まると、女神同様、人狼たちの姿が消える。

リューは大仰に肩で息をして、大地に膝をついた。
倒れ込む前に、オオドリが駆け寄り、抱き留める。
リューはなかば無意識にオオドリにしがみついた。
「だから、神様なんか、嫌い・・・」
くぐもった声は、そう聞き取れた。
(何が、「だから」なんだ?)
だが、リューらしいような気がして、苦笑した。
影が、落ちてくる。
片手でつかみ取ると、それは、リューの『証』だった。
しばし、浮かび上がった太陽の刻印を見つめた後、
リューの首にかける。
触れると、より、その細さを実感する。

「う・・・」

女神に眠らされていた女達が、目覚め始めた。
反射的にオオドリは女達から離れ、空へ逃げた。
何か説明を求められても、応じられる自信がない。

 低かった太陽はいつの間にか天頂に達し、
ジリジリと二人を刺し、リューの目を開かせた。
「オオドリ君・・・」
ほわ、と笑うが、力がない。
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