第一部

□T-3 ケンカ腰に話す件
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《このラムダの力は、ぬしらがわずかな時間で集めうるに足りるほど、
小さなものになったのか?》
見れば、祭壇を足場に、巨大な女性が立っている。
その体から、後ろの空が透けて見える。
滝のように流れる金の髪は、一度結い上げ、肩へ、足元へと垂らしている。
その肌は雪のように白く滑らかで、瞳は空のように青く麗しい。
たおやかで、見る者に畏敬の念を起こさせる容姿すがただった。
人狼が、女神へ進み出る。
「いいえ、我らが大姫様。
御身のお力と美しさは変わらず、いいえ、いや増すばかりです。
ただ、我らは一人千人に値する、神気の持ち主を見つけたのでございます」
《・・・・確かに。だが、これは・・・》
探るような表情をした後、シュンッと一瞬で人間の大きさに転じた。
同時に、背後の景色が透けなくなる。
女神が、まっすぐに、一人の女を目指す。
身じろぎせず、女神を見つめる女のベールを優しい仕草で払う。
《アルファ・リュンキス》
鮮やかな、宝石のような姿が現れた。
「ごきげんよう、大姫様」
呪縛がほどけたように。
挨拶だけすると、きびすを返した。それを。
《待て》
制止の声と同時に、リューがビタンッとすっ転ぶ。
今のは、痛い、と見ていたオオドリは顔をしかめた。
「ヒトの大勢見る前で〜〜〜〜っ!」
鼻を押さえ、恨めしそうに言う。
《他の女は眠らせてあるが?》
何でもないことのように、大地に伏した百余名の女達を示す。
「・・・精神体なのにやることが派手だね」
呆れて、嫌味をポン、と放つ。
無礼な物言いに人狼一同が肝を冷やしたが、当の女神は軽く笑っただけだった。
そして、穏やかに尋ねる。
《リュンキス。まだ、あれを許さないのか?》
リューはそっぽを向いて答えない。
《もうそろそろ折れても、良いのではないか?
そもそもは、あれを、嫌ってはいなかっただろう?
心の整理がつくように留保にしたが、
今のままではリュンキスの時は正しく進むことがないぞ?》
なだめるような、口調。
「いやっ!」
キッと女神を睨んだ。
「許さない!」
声を限りに叫ぶ。共鳴するかのように木々がざわめいた。
「絶対、許さない!
従わない!
愛さない!
解放しない!
許さない!
エータなんか、ずっと、ずっと、あそこにいればいいんだ!
独りで、ずっと眠り続けていればいいんだ!
あたしを、独りにしたんだから!!!」

それは、怒りと、複雑な何かが絡み合った表情で。
そんなリューに、女神は穏やかに諭す。
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