第一部

□T-3 ケンカ腰に話す件
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「まぁ、今まで連れてきたお嬢さんがたには悪いけど、
衣食住一応世話してるし女神様の召喚手伝ってもらえたら
すぐに返すからさ。
今日一日辛抱してや」
「・・・女神の、召喚?」
リューが、不平をそのまま声にして呟く。
「そ。我らが大姫様の召喚」
「は?大姫?って、もしかして、『神姫』?」
「は?なんでその畏れ多い名を」
「『神姫』は称号で名じゃないし。
その恐れ多い主人を犯そうとしたくせに」
その言葉に、人狼は初めて動揺し、歩調を詰まらせた。
「ちが!ごか!ただ、大姫様の肌掛けがずれてるのを、
お体冷えたら難儀だって・・・」
「使いっ走りが女神の衣ころもに触れるだけでも十分罪と思わない?」
「うっ!だから、大姫様の神姫の1/5に相当する気を、
集められたら、その忠誠心を認めて、また使ってくださるって」
しどろもどろに言い訳をする。
「・・・ふーん。
じゃ、向こうの森のは完全に邪念で堕とされたヤツの
なれの果てなのね」
「あんなんと一緒にしないで欲しいわ。
月姫様にお仕えしてたらしいけど、主神しゅじんに手を出そうとするなんて、
忠誠心も賢さもお役立ちも、全然違う!
はっ!その呆れ返った表情は何さ!」
感情的に訴える。
リューは溜息を吐く。
この世界で、神の気の1/5だなんて、無理だ。
神に列つらなる者を捕まえでもしないと。

ていのいいや厄介払い、とは・・・思えないのだろう。
女神を敬愛する彼らは。

リューは何度目かの溜息をつく。
「悪いけど、あーちゃん、神様嫌いだから、神様に会うの遠慮するわ」
「そんなもったいない!って・・・お会いしたこと、あるのか?お嬢ちゃん」
「ナイショ。」
言うと同時に、強い衝撃が人狼を襲った。
加護を無効にされ、赤い炎のうねりが押し寄せる。
「神様の広い心で許してね」
世間の誤解を言い訳にする。
術の勢いで離れようとしたリューの足を、人狼が掴みなおす。
火傷しているとは思えない力強さに、リューは顔をしかめた。
だが、立っていることができず、人狼は地に伏した。
リューも、地べたに座り込む形になる。
「お嬢ちゃんだから、今日で終わるのさ。
絶対、死んでも、連れてくっ!」
凄い形相で、吠え、仲間に知らせる。
「・・・だから、神様関係のヒトって、嫌い」
むくれつつ、観念して、人狼に治癒の魔術をかける。
気絶しかかっていた人狼はパチクリと体を起こし、リューを見て笑う。
「お嬢ちゃんイイコだなぁ。
攻撃してすぐ直してくれるヤツは初めてだわ」
「そりゃーそうでしょーよ」
リュー自身、した覚えがない。
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