第一部

□T-3 ケンカ腰に話す件
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「うん、だいたい一緒にしてあるから、すぐ持ってこられるよ?」
言って、部屋へ向かおうとする。それを。
「あーしかーらずーっ」
不意に現れた人狼が、ひょいっと抱え上げる。
慣れた様子で表通りへ、スッタカ走り去った。
半分獣であるのは伊達じゃなく、速かった。
足音もなく、跳ねるような、しなやかな走り。
「ーーーーーっって、呆けている場合ではない!」
あまりの手並みに、唖然としていたオオドリが我に返る。
「またしても!」
己を叱責し、勢いよく宿を出ようとした瞬間、
くぃ、と宿屋のおやじがマントを掴む。
きゅ、と首がしまった。
「お客さん、お代」
『自分本位な人きらーい』
リューの声色(エコー付)で、その言葉がオオドリの頭に紡がれる。
脳裏には、不機嫌なリューの表情。
「・・・っ。荷物は、置いてある。
彼女を助け出したら、戻る」
苛立ちながらも、極力抑えて告げる。
「はっ、て、ことは、お客さん達が戻ってこなかったら
荷物をお代としてもらうからね?」
その言いように、オオドリは絶句する。
自分の宿屋で、客がさらわれたと、いうのに。
(確かに、好きではないっ!!)

オオドリはもう何も言わず宿屋を飛び出した。
おやじの死角に入ると翼を広げ、空へはばたく。
山を確認すると、風に乗って、加速する。
その移動速度は、地を駆けるよりも遙かに速い。

出来る限りは使いたくなかった、翼。だが。
(今ばかりは、あって良かった・・・・)



「・・・・むーむーむー」
「何さ、お嬢ちゃん」
むっつりとうなるリューに、人狼が応じた。
「あんたらって、女神に堕とされてから、間もないんでしょ」
「おや、よく分かったね、お嬢ちゃん」
大きな歯を見せて笑う人狼に、リューは舌打ちを打つ。
「さっきから呪文を完成させてるのに、全然発動しないんだもん。
まだ加護が、働いている」
「何さ、お嬢ちゃん、こんな軽い体して、魔術師なんて
物々しいことしてんのかい。
まぁ。これだけ強い神気もってんなら簡単だろうけどさ」
攻撃を仕掛けられようとしたことはさらりと流す。
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