第一部

□T-3 ケンカ腰に話す件
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「ふっふっふっ。ちょっと過剰労働しちゃった」
「休んでいろ」
無理に軽口をきくリューに、静かに告げた。
「置いて行っちゃ、やだよ?」
冗談ぽく笑う。
「行かない。また、あの宿に泊まる」
「うん・・・」
安心したように笑い、また、意識を手放した。



 宿屋に着けば、おやじが心底驚いて迎え、また泊まることを告げれば、
呆れつつも、その用意をした。



 リューを寝台に寝かせると、オオドリは一時その場を離れようとする。
しかしリューの手はオオドリの服を固く掴んでいた。
つついても、手が開く様子はない。
オオドリは小さく息を吐き、寝台に腰掛け、リューを眺めた。

寝顔は、どう見ても、12、3歳の少女にしか見えない。
だが、そうではないらしい。
ただ若く見える、というわけでもないらしい、とも。
そこまでは、オオドリにも分かる。あとは・・・。

 オオドリは、疲れたように溜息をついた。
ほんの数時間で、初めての表情を、幾つも目撃してしまった気がする。
・・・そう、目撃だ。
リューが、オオドリに見られることを意識しないで、浮かべた顔。
大粒の涙を、あられもなくこぼして。
「怖い」と訴えていた。

・・・何が?
 独りが。独りにされることが。拒絶が。

誰とも関われない孤独は、最大の狂気だ。
始めから、独りでいることしか知らない限り。

初めて会ったとき、オオドリを「寂しそう」に見えたと、言った。
それは、自身とオオドリを重ね合わせたのではないか?



「おお・・く。。」
寝返りを打ち、呟く。
「おおどりくん」のかけら。
「呼ばずとも、逃げはしない」
リューの髪にかかった髪をよけながら、ささやく。

「ずっと独りでは、確かに寂しいからな」

どんなに、強がってみても。
平気になることはない。

オオドリは目を閉じ、過去を想う。
そのまま、リューに誘われるように、眠りに落ちた。



  佳き夢か否かは、彼のみぞ 知る




<END>


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