うちの彼女は超イノベ・2

□手をつないで走ろう
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『手をつないで走ろう』



君を攫って何処までも。


「馬鹿!なんでこんな…みんなに迷惑……」

「大きなお世話だ、とか言いたいの?……自分だって、あんなやつ旦那にするの嫌だっただろーに。いくら育ててもらった義理があるからって、そこまでする必要なくない?」

「……う」


仮縫い中の淡雪ドレス、さようなら。
また会いましょう。ヴァージンロード。

ねえお姫様。愛の無い結婚なんかしちゃ駄目よ?
さあ行こう。自由とスリルでいっぱいの最果てなんてないあの空へ。


「……親指姫みたい」

「あ〜なるほど。それじゃあ俺が運び屋さんな燕さんてわけね。ほいさ。ちょっと目ぇつぶってて―――持論だけどね女の子は一番好きなひとの傍で笑ってんのが一番綺麗でさ…よっと。たぶん一番幸せだよ」


お気に入りだって知ってるさ。
“ほんの一時パパだったひと”から結わえてもらった若草リボン。こんな時まで連れてく気なんね。
はぐれないよう翡翠の糸。たっぷり絡めて手と手繋いで。



高く高く、翔ぶ。










「兄さん!ティエリア姉さん!お願いします!この世で唯一無二の可愛い弟君を助けてあげてはくださいませんか?この通りでございます!」


ある晴れた昼下がり。
結婚生活2年目にして、今尚冷めない熱々グラタン真っ青な年の差夫婦の一軒家に転がり込んできたのは、家主にそっくりそのものなくりくり癖毛の犬男。
その声を耳にした途端、幼妻がおっかなびっくり手にしていた昼食用完熟トマトがぶじゅり、と無残に圧死した。

「……なあティエリア。そんなね、さも【お前は愚かで可哀想な下等生物だからしょうがないな】な見下し目線、やめてあげてくれないか?仮にも俺の弟なんだから」

ソファーに居座り新聞なんぞを気もそぞろにぺらぺらめくる彼女の夫にしてみれば、こんなやりとり他愛無すぎて呼吸するのと同じこと。

「ねえニール。とりあえず勘当したらどうでしょう?」

「愛がねーっ!」

最後通告。
初めて挨拶交わした日からどうにもそりが合わなかった伴侶と身内は、どう頑張っても打ち解け合うことはまじでなく。

「奥さんや。Mっ子いじめがいくら趣味でもたまーには優しくしてやってね。でないとライル、ぐれちゃうから」

「ふん。このブラコンが。三十路目前なのだから、これを機会に兄離れしたらどうだ?私達の平穏無事な毎日を血縁と言う名の不自由な括りで凌辱するな」

「兄さん!なんでこんな貧乳女選んだんだよ!?ドS女王に足蹴にされて、そんなんで幸せなのか?少なくとも俺は不幸だね!」

いつまで待っても平行線が治らない。
やれやれ、と内心溜息つきつつも愛しのハニーをひょいとお膝に召喚した。
菫で染めた絹糸から自分と同じ春の風。

「うん。しゃーわせ。理由なんかねーよ。だってティエリアだから、としか言えないねえ。奥さんが今日も元気で何よりです」

「……困った子だこと」

おでこをピンて鍵盤みたく爪先で弾く。あら残念。あんまりいい音しませんね。

「あー…はいはい。バカップルに恋バナけしかけにきた俺が悪かったよ。分かりました。一人でどうにかしますから、もういーです」

「なんだよライル。【一人じゃどうにもならないから】俺達に相談に来たんだろ?―――まかせなさいって。便利屋Mr&Mrsストラトスは非人道的な商売は断固しないんだぜ?ね。ティエリアもつきあってくれる?」

この家の可笑しなところ。
スリープモードのペットロボ。小突いて起こせば、ぱっかり開いたお口からお手ごろサイズのCOLTなんかが出てきちゃう。

「私は……非力で尚且つ善良と判断される全女性の味方なだけです。貴様ら下賎な雄の事情など知ったことか」

んでもって若奥様の美脚に収まるホルスターと投げナイフ。ガーター見えたら即死です。

「うっひょー。いいアンヨ。これを兄さんが一人占めかー。ちょっとずるいね」

「目標ライル・ディランディ。蹂躙のち殲滅させる!」

組織仕込みの暗殺業。眉間も喉も捉えましたよ。
ああなんて愚かなひと。蒼薔薇の刺は猛毒なのに。

さあ。私の胸でお逝きなさい。

「ぎゃー!やべ。ほんと死ぬ!マジ入ってる!兄さん助けて!だからさあ、フェルトが結婚させられちゃうの!あのババァ、金持ちのおっさんに売り渡す気なんだよ!俺、先月からぜんっぜん会わせてもらえてないの」

「どうします。あなた。遺伝子上も親権上もまったくもって他人である父娘ですものね。わざわざ救」

「お前まだ俺がバツイチだっての根にもってるわけ?だからフェルトはあっちの連れ子で……じゃなくてライル!それを先に言えーっ!」



お役にたちます逃がし屋夫婦。

愛機はランチア・ストラトス。
愛棒兼用パートナーは最愛の。
あなたに背中を任せられる限り私達は絶対無敵。









「―――ほい。時間通り。お前も“こっち側”の才能ありそーね。食うのに困ったら俺らとチーム組んでみる?」

「やめてください!こんな尻軽男、我々には必要ない!」

露草色の夜明けに目覚める野原歌。従者仕立てのスワローテイルが翼のないアネモネの妖精連れて降り立った。お花の国の女帝夫婦、お出迎え。

「あ。ロックオ……」

「―――じゃなくてニール。ひさしぶりだな。フェルト。それが今のパパの名前だ」

母さんの手織りショールみたくすっぽり。携帯端末にかかりっきりの才女の肩をごくごく自然に包む手は、もう自分だけのものじゃない。
……変だね。私にだって“彼”がいるのにやっぱりだけど胸が痛い。

「おや残念。君に貸し出した飛行ユニット、尾翼に異常が発見されたぞ。あと一分着陸が遅ければ墜落していた。やはり改良の余地ありだな。テストパイロット、ご苦労」

「お前そんなに俺が嫌いかーっ!?」

「まあな。だが……こちらの姫は歓迎する。初めまして。フェルト・グレイス。ほとぼりが冷めるまで我が家に滞在するといい。君はもう自由だ。何処へでも好きな場所へ飛んでいける」

親愛のハグ。パンケーキにだっこされたみたい。
あのひとが好きになったひとだもん。きっと自分も好きになる。


「じゃあ…走りたい。おもいっきり」


悪戯ばっかのコドモみたいによーいどん。土手道マラソンただ今出走。
転んで滑って苦笑い。手と手と手。みんなで結んで大笑い。
ほら。お日様だってにっこにこ。

「うはー。一張羅が泥だらけ。俺、かっこわりー」

「そんなことない。ライルは格好いい。燕さんじゃなくて、ちゃんと王子様。
うん…また、4人でこうやって駆けっこしてくれますか?それくらい私、いま幸せだよ」

「来年の秋は、たぶん…その。5人になってると、思う」

「ん!?それ本当かよ?でかしたティエリア!」



木枯らし吹いても風花の日でも一緒に歩いて一緒に走ろう。だって僕らはみんなで家族。しっかりしっかりこの手、つないで。

         END


*ディランディ兄弟幸福祈願企画『僕の世界は君のもの!』様への提出品。人数多いほど家族ってやつはあったかで、幸せの寄せ鍋みたくなると思ってます。
うちのライルとティエ、嫌い嫌いってんじゃなくて喧嘩するほど仲良しさんなのです。

2008/12/18

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