うちの彼女は超イノベ・2
□狼と兎と流れ星
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『狼と兎と流れ星』
天空に住むライオン座が何十年かに一度だけ降らせる星の雨。地上に落ちる頃にはほとんどの子が燃え尽きてるって悲しい話。
だけど中には運がいい星もいるらしく。
「おっかしーなー。絶対こっちに落っこちたんだけどなー」
無傷で“水の惑星”にやってきた、そいつの一片見つけたひとは願い事ひとつ叶うんだって。
「ニオイがする。あちら……っ!く…さすがに痛むか」
拝啓。天の神様へ。
「「あった!……え」」
僕の願いを聞いてください。星の欠片を見つけたらつむじ風に、そっとそっと乗せますから。
「うわっ!狼!?なんでここに!あんたらの領地は川向こうまでだろっ!?」
「垂れ耳兎……肉付き良好、若い雄か。貴様を狩れば群れが潤うな」
未知との遭遇。縁かそれとも偶然か。両手からすうっと離れた綺羅綺羅星
強い後脚と鋭い牙と。かち合う先はブルーベリーの包囲網。
先手必勝。逃げたほうが生き残る。
「ふふ……見れば見るほど脂がのってそうな脇腹だ。悪食なリジェネも喜ぶぞ」
「うるせえ!俺はメタボじゃねーっての!無実だ無実!熱烈な視線は大歓迎したいとこだけど、悪いね。肉食獣のお嬢さんは射程外なんさ」
とは嘯くものの美人から目を逸らせないのが雄の性。
「俺なんか不味いよー。臭くて筋肉質でぱっさぱさ」
「さあ。それはどうでしょう?引き裂いてみなければ分かりません」
淡雪みたく混じりっけなしに純白で、爪先から尾っぽの先まですんなりしゃなりしなやかな柳蘭みたく妖美な娘。ニコリじゃなくてニヤリしかしない。なんて硬質で貞淑なんだ。味見なんかする前にきっと自分が胃袋行き。
北極星の冷めた瞳がつまらなそうに瞬いた。
「つれない男―――だが。よかったな兎。僕は完全たる菜食主義なんだ。君の肉など欲しくな……くう!」
ぱたり、カミツレ草原にトマト色した雫が落ちた。
「―――おいおい。お前さん、ひどくやられてんじゃねえか!」
季節外れの鮮やかな朱。
くすみ一つない綿毛布が見る間にじわじわ侵食されて穢れてく。
「こんな痛み…たいしたことじゃない。今まで僕が聞いてきた断末魔に比べたら……」
「なに痩せ我慢してんだよ!?診せてみな」
「触るなっ!頼むから…ほっといて……そうでないと私はあなたを食い殺すから……!血も肉も悲鳴だってもういらない…私はもう殺したくないんだ……」
だからこんなに痩せっぽち。
木の実や若草摘みが趣味になった優しすぎる狼なんて生きてけない。あーあ。俺ってついてない。とんだ“拾い物”しちまった。
「お嬢さん、あんまり利口じゃなさそーね。それ、仲間にやられた傷でしょ?」
「……好いてもいない雄の子を孕むくらいなら女帝の地位はいらない。舌噛んで死んでやる」
絶対零度の苦悶の視線。狩られる側の本能か。背毛がひやりと逆立った。
「なーるほど。でもさ“生きたい”から逃げてきたんだろ?“群れ抜け”なんて相当厳しいって聞いたぜ―――こいよ。ここならもう安心だ。蟲と草喰いしかいない森だからさ、誰もあんたをいじめない」
「詭弁だ!私は狼だぞ!?お前達を虐げ食らう残虐な獣だ!お前が許しても、他の者は私を絶対許さない!私はもう……何処にも存在できない生物なんだ」
「だったらさ、先にお願いしちゃえば。俺、別にこんなお星さまいらないし?」
書き直し。拝啓。天の神様へ。
「あなたはそれでいいのか?」
「………うん。分かってっから。神様に頼んだって、死んじまった俺の母さんも妹も、父さんだって二度と帰ってこないって」
「あなただって愚かだな―――ならば。二人でこう願えばいい」
僕らの願いはただ一つ。
『家族が欲しい』
『居場所が欲しい』
二人で一つのお願いです。ソラ往く南風、僕らの想いを届けてください。
「ねえニール。この葉は食べられる?」
―――エメラルドグリーンのしっぽのついた流れ星を見かけたら、追い掛けて、捕まえて、欠片を探してみて御覧?絵本より素敵な物語、きっと夜空は降らせてくれる。
「ちょ!おま!待ちなさいティエリア!ドクダミなんかぱりぱり食うな!舌捩れるくらい苦いでしょ!?ぺってしなさい!」
「すいません。妊娠したら味覚が変わったみたいです」
ラベンダーの丘のさらに奥、ミントの森に住んでいる茶色と白の兎の夫婦。幸福でおなかいっぱいな、二人がそれの実証人。
END
*ティエ受けWebアンソロ企画『泡沫』様への提出品。まさかの兎ニル。案外可愛いと信じたい。
残り僅かな“今年”です。大好きなひとと一緒に、ほっこり幸せにお過ごしください。
2008/12/31