作品展示場

□人形遊び
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 俺の為に死んでよ。とにこり微笑んでいってみたいと俺は思った。
 先生は俺のことを愛していて、俺も先生のことを愛しているのだから別にいいでしょ?なんて俺は言って見たいのだ。
 いくら愛があっても、俺と先生なんて生徒と教師と言う間柄でしかない。恋だと思っているのだって実は錯覚なのかもしれない。

 だからこそ、俺は思うのだ。
 俺が本当に好きなのならば、愛しているのならば、俺の為に死ねるのじゃないか。と
 不覚にも考え付いてしまったのだ。
 それだけの理由で、俺は、先生に、今日、『死んで』と、伝えてみるのだ。

 本当に死んでくれたら傑作だ。
 俺は先生を愛しているし、めちゃくちゃに犯したいとも思っている。だがそれは先生の固い意志でヤることはできず、本当に俺が好きなのだろうか?と錯覚してしまっている俺にとっては、うれしいのやら悲しいのやら良くわからない気持ちになるのだろう。それを味わってみたいのだ。

「先生」

 ガラリと何時ものと同じ保健室のドアを開ける音が耳に響き渡って、先生が丁度こちらを向いていた。手には段々寒くなってきている時期にはぴったりなほかほかと湯気が出ているお茶を持っていて、熱くないのか気になりつつも何時ものようにズカズカと入ってソファに堂々と座る。

「早かったね」

 何時ものように笑顔を見せる先生に、俺もつられて少し微笑み。「お茶淹れるね」と言った先生に「手に持っている茶がいい」と返事をしてみる。先生は飲みかけだから、と焦ったように言ったがそれは逆効果。間接キスでもいいから最後(になるかも知れない)、先生と繋がりたかった。
 いいから、と強引に受け取った中身が六割残っている暖かいお茶をグイッと体に流し込む。熱いと感じたがそれでもよかった。
 お茶が一気に三割ぐらい減ったとき、俺は笑顔を浮かべつつ言う。

「先生は、俺の為に死ねる?」
「え?」

 やはり驚くか。
 でも先生の事だからすぐに微笑んで「生徒の為に死ねるなら、」と言うのだろう。その通りだった。
 へにゃりと嬉しそうに微笑みつつ俺が予想していた言葉を、一文字も間違えず言う先生に本気で笑ってしまう。可笑しい可笑しい可笑しい先生は狂っているのだろうか。それとも正常なのだろうか。それは判らないが何故そこまでして生徒を愛するのかとても興味を持った。
 俺個人ではなく、生徒のため。
 きっと色んな指名があるのだろう。
 それが無償に悲しかったのだ。俺の為に死んでほしいのだ。

「せんせえ」
「なあに?藤くん」
「生徒のためじゃなくてさ、俺のために、今すぐ、ここで死んでよ」

 ニヤリと自然に上がった頬を隠すこともなく、寧ろ先生に見せ付けるように言ってみる。先生は先ほどよりも驚いていたが今度は「藤くんのためなら」と綺麗に微笑んで保健室に何故か置いてある果物ナイフで己の喉を衝こうとした。

「うそ。冗談」

 先生が俺の為に死んでくれるだなんてきっと何かの冗談だと思う。それでも純粋に嬉しかった。それでも俺は何故か満足しない。ああ、今度は先生に何してもらおうか

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