作品展示場

□novel
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顔は確かに恐ぇけど……、昼休み、煩い邪魔の入らない保健室で、俺はいつものようにウチ特製の懐石弁当を掻っ込みながら、いそいそとお茶を入れている養護教諭に視線を注いだ。何がそんなに嬉しいのか、眼の下のヒビワレが余計拡がるんじゃないかと思うくらいに笑顔を浮かべたそいつは、いい加減結婚していてもいいくらいの年齢の癖して、俺たちよりもまるで子供のように見えた。「はい、どうぞ…」何杯目のお茶だろうか、わざわざ茶葉から入れるのも面倒だと思うのに、そいつは律儀に茶葉を換えているようで、何杯飲んでも玉露の甘い味が舌に心地良い。「なあ、アンタ何がそんなに嬉しいんだ?」俺は綺麗に食べ終えた重箱をテーブルに置いて、間近に迫ったその顔を、逸らすことなく見返した。ちょうどと言うか、明日葉と美作は不在で、保健室には俺とそいつしかいなかった。でなけりゃまた美作の半畳が入っていたところだ。じっと凝視されることに慣れていないのか、そいつは照れたように笑って、俺から視線を外しながら、「…少しでも君たち生徒のお役に立てるのが嬉しいんだよ。」そう恥ずかしそうに言うさまは、女学生のようにさえ見える。俺より身長も高くて肩幅だってあるいい歳した男が、そんな風に見えるなんてこっちの方が気持ちが悪い。「…あっそ……」俺は一瞬重なった幻影を振り払うように、弾みをつけて立ち上がると、それ以上そいつを見ないよう下を向いたまま、部屋の半分を区切っているカーテンの一つを引き開け、ベッドに転がり込んだ。
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