作品展示場

□普段から言い訳ばかりの
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その日藤麓介は、早朝だというのに真昼のような太陽照り付けるアスファルトの上をだらだらと、だらだらと歩いていた。カレンダー上では夏はもう終わりに近付いている筈なのに暑さは全く和らぐ気配がない。ただ、その日は普通夏休みの真っ最中であって例に漏れず麓介の通う学校も休み、本来彼が歩く理由は無い筈だった。

「山蔵の、やつ」

そう、無い筈『だった』。彼がこの暑苦しい道を歩いているのには、まぁ、一つの理由があった、彼の兄、山蔵だ。夏休みに入ってからというもの日々家のなかでだらだらとしていた弟をみかねて山蔵は弟を半ば強制的に家の外へ追い出した。この熱の中、急に追い出された用事も約束も何もない、まして普段から寝てばかりいる麓介にとってそれは結構な暇であり苦痛である。彼はまるで死地へ向かうような表情をして歩いている。
友人の家に遊びに行くには少々早すぎる時間かもしれない、きっとまだ夢の中でうだついている奴もいるだろうと考え麓介は行く宛もなくだらだらと歩いていた。暑い、途中幾つか道端の店で涼んだりもしたが居心地はけして良いものではなく、

「はぁ、涼めるとこ、ねえかなぁ」

だから、其処に行こうと思ったのには多分、大した理由は無い。






「藤くん!どうしたんだい休みの日に!」
「先生こそ」

麓介が保健室の戸を開けたとき派出須逸人は何時も通り其処にいて、休みの日に好き好んで学校に来る筈もない麓介の訪問に目を見開き驚いていた。彼は部活生の怪我に備えているのだと言っていつもの茶を用意しながらもう一度、どうしたの。と言った
別に麓介だって好きで此処に来たわけではなかった、消去法、行き先を色々考えた結果一番誰の迷惑にもならず、太陽の日差しをしのげて、眠れるとこが此処だっただけである。

「別に、暇だったから…あっちー…なんだ、クーラーついてないのかよ」
「え?あぁ、一応学校は休みだからね、冷たいお茶ならあるよ、飲むかい?」
「一杯、貰う」

逸人は何時も通りお茶を入れて麓介の前に差し出し、

「本当に、何でもないんだよね」

と聞いてきた。

「先生しつこいなぁ、何、俺から病魔の気配でもするの」
「そういう訳じゃないけど…」

麓介は一つ溜め息をついて家を追い出された話を、多かれ少なかれ脚色を交えて話した、派出須逸人はかなりの心配性であり麓介のことも普段から気にかけている故にこの麓介の訪問を不思議がって心配しているだけだということは麓介自身分かっている。ましてやかなりのお人好しで素直を通り越しての馬鹿だ、ならば利用しない手はない。説明が終わる頃には逸人は彼にゆっくり休めと言い、至れり尽くせりだ。
全く、使いやすい。だから此処に来たんだ、と麓介は心の中で思って、一言眠いと告げて保健室のベッドで眠った。





さて、それからどれ程時間がたったか。
外の陽は沈んではいなかったがもうかなりの時間藤麓介は眠っていた。心地よく、心地よく、半分は、眠ったふり、をしていた。
全く一体横となって寝る目的を果たそうとしたらなぜ此処に来たか気付くのだから。
眠れやしない。





暇なのか横になったまま目を閉じる麓介を逸人は団扇であおいでいた、楽しそうに、楽しそうに。















(何で、気付かないんだよ、俺が先生に会いたくなったから此処に来たことにさ)

あぁ、それはあまりに何時も通りだったから。





(『先生、好きだよ』とでも言えば気付くだろうか)

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