作品展示場

□好きの再変換
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否定された時間を、取っ払ってみたくなったんだ。





昼休み。


遠くに聞こえる楽しげな喧騒を遮るように閉められた白い扉の中、居るのは僕と、もうひとり。



「ふ、藤くん…」
「んぁ?」
呼び掛けるとソファに寝転がって漫画を読んでいた彼は骨の抜け落ちた声をだした。
「あの…今週の日曜日って、何か予定ある…?」
「?別に無いけど」
「そう…?じゃあえ、と…」
午前中こっそり練習していたのに。いざとなると喉が何かに押し潰されるように声がでてこない。
きょとんとした顔に心臓が跳ねる。

「…かいもの…に付き合ってほしいんだ、けど…」
保健室の掲示物の材料が足りないから、そんな言い訳めいたものは出てこなかった。


「それって誘ってる?」
緩やかに口角を上げた藤くんが、ひどく大人びたことを言ったから。
「デート、しない?」
そのたった一言が、どうしても出てこなかった。
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