作品展示場
□この感情を何と呼ぶのか
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「ありがとう。
…僕も好きだよ?」
「…何で疑問形なんだ?まあいいけど」
藤は呆れた顔で溜め息をつく。
「それに、アンタの好きと、俺の好きは違うと思うよ?」
「え?」
「俺は…恋愛の対象としてアンタを見てる」
藤の言葉に、目を大きく見開いたまま硬直する。
藤は自分の言葉が照れくさかったのか、頬を少し紅潮させていた。
逸人は何か言おうとしたが、上手く考えが纏まらず、結局また唇を閉じる。
「思いもよらないって顔してるな。
わかってたけどさ。アンタにはハッキリ言わないと、一生伝わらないと思ったから」
藤の指摘はあながち間違いでは無い。
こうハッキリと言われなければ、おそらく一生気付く事も無かっただろう。
「でも…僕は…」
「わかってる。アンタが俺の事を生徒としか見てないんだって。
でもさ、こうやって知ったら、何か変わるかも知れないだろ?」
藤の真剣な眼差しに、逸人は思わず目を逸らす。
藤は少し寂しそうに笑うと、逸人の手を握る。
藤の手は熱く、手の甲から、藤の熱い思いが流れ込んでくるようだ。
「先生、アンタの事が好きだ。アンタは、俺の事すき?」
まるで見透かそうとするような、熱い眼差しで見詰められる。
「僕も…すきだよ」
藤くんの意味とは違うけれど。
逸人は心の中でそっと付け加える。
藤はまるで心の声が聞こえたかのように、深い溜め息をつく。
「…まあ、仕方ないよな。明日もまた来るよ」
藤はそう言ってニヤリと笑った。