足立夢
□雨の特異日
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静かに水音が傘を打つ。
小雨だから音は小さい。
けれどもやはり雨は雨。めんどくさいことこの上ない。
「ん?」
進行方向に人影。とダンボール。
それと、雨音に混じり小さな鳴き声。
「足立さん」
私はその人影に声をかける。
足立さんは、私に気づくとまるで仏様でも見たかのような表情になった。何事だろうか。
「どうしたんですか?」
一応、形式的に聞いてみる。
「いやぁ、子猫が鳴いててさ。雨に濡れてるみたいだったから」
「子猫?」
そう聞くと足立さんは「これこれ」と言ってダンボールを指差した。
ダンボールを覗くと確かに子猫が鳴いている。
「………傘が必要なんですか」
「そう、傘が必要なの」
「………足立さん持ってるじゃないですか」
「ヤダよ、僕濡れたくない」
「私も嫌です、ってなわけで交渉決裂」
あっさりと足立さんの交渉は失敗に終わり、私がまた徒歩に戻ろうとした時に
「にゃー」
と子猫が一鳴き。
今度は君が交渉するんですか。負ける気しかしない。
「だってさ」
足立さんが笑いながら言う。
私は静かにため息をつき、
「仕方ない…子猫くんの為に濡れます」
そう言い、自分の傘を子猫の上に置く。