足立夢

□がっかりさせないで
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女は、銃口を目の前にいる男へと向ける。
銃口を向けられている男も銃を持っているが、それは男の手の中にはない。
狙いは一度きり。弾倉にも、弾は一発しか装填されていない。


「はぁっ…はぁっ…」


目は据わっていても、銃を構える女の手は震えている。
それでも決して目を逸らすことはせず、構えた銃も下ろさない。


「足立さん……、聞こえますか?」


足立と呼ばれた男は顔を上げると、にへらっ、と笑った。
その後すぐに、にたりと笑う。
足立は彼女の目を見据え、


「聞こえるよー」


と、場の空気に合わない軽い口調で返事をした。


「あと数分で……多分みんなが来ます。だから、降伏しませんか?」

「降伏?…やなこった!君、馬鹿じゃないの?」

「あはは…やっぱりですか…馬鹿げた提案でしたね。大丈夫です、冗談ですから。」


ふふ、と笑った女も、ははっ、と笑った足立も、目は笑っていない。互いに顔色を変えずに睨み合っている。


「ねぇ、足立さん」

「ん?なに?」

「やっぱり一人で足立さんを追って来たの、間違いですかね?ちょっと危ないかなぁ、とか今更思ってみます」
「極悪殺人犯にいきなり「僕を撃ってくれ」とか言われちゃったりするしね」


足立は他人事のように、端的に言った。
赤と黒の禍禍しい色をした空のあるこの空間を、足立はちらりと見た。


「早く撃ったらどうかなぁ。躊躇いも同情もいらないからさぁ」


にやにやと笑う足立に、女は再度狙いを定めた。狙うは脳天を一撃。


「そう。さ、早く撃ちなよ」

「っ………」


銃を構える女の手が揺れ動く。
足立は余裕そうに両手を広げ「早くしなよ」と女を急かした。


「世界の意思は君を選んだんだよ?君はその為に一人で来たんでしょ?なのになんで撃たないの」

「足立さんお願い…一緒に帰ろ?」


女は声を震わせながら続ける。


「私やっぱり足立さんのこと撃てません」


少なからず好意を抱き、多くの愛情を抱いたから。
女は心でそんなことを思うが、口には出さなかった。
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