1ページ劇場

□僕の幸せ
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幸せの形は人それぞれ違うのだが、目の前で幸せそうな二人を見ると、ああ羨ましいなと四柳は思う。

「御堂さんがいけないんですよ?今日は出掛けようと話していたのに、ベッドから中々出てくれないんですから」
「出ないではなく、出られないと言った方が合っているぞ?以前に君が、私の傍で一日が終るのも幸せかも知れないなと言うから、確認をさせてあげたまでだ」
「出掛けようとした日に、確認させないで下さい。もう、ようやく第3弾の映画が封切りになったと言うのに」

プンスコ怒っても、どこかしら可愛らしい克哉に、それはすまないなと悪びれる様子も無く笑う御堂。
それを肴にしてワイングラスを傾ける四柳は、不意に自宅で起きた昨夜の出来事を思い出した。

「好きな人?いるよ?」

ウェーブ掛かった髪を掻き上げて、そう話す男、本城は隣に腰掛ける四柳と肩を組む。
ソファーに座る二人の密着度が増し、落ち着かない様子でワイングラスを意味も無く四柳が回しながら、自分で聞いた質問の答えを貰っていた。

「僕の好きな人は……、ズバリ君さ!」
「ぶふっ!!」

四柳がグラスに口を付けた瞬間、衝撃的な事実を口にされ、呆けた様に固まる彼にどう?驚いた?と本城が尋ねる。

「アメリカンジョークは、気に入ってくれたかい?」
「ジョーク……?」
「ああ、君が僕に恋人を作れよとか言うから、少し驚かせてやりたくなったんだよ」

悪戯小僧みたいに髪を揺らして組んだ肩を外す本城は、自分の分のワイングラスをテーブルから取り口を付ける。
臙脂色の液体が消えていくのを見送りながら、辛うじて四柳が言えた事は、そんな冗談など口にするな位で。
まだ酔い始めてもいないのに目頭が熱くなり、片手で四柳は瞼を覆い持っていたグラスをテーブルに戻す。
震えた指で戻した所為か、離す時にグラスを傾かせてしまい、硬い音と共に臙脂色の液体をテーブルに零れてしまう。

「オイッ、四柳。ワインが零れたぞ?……大丈夫か?」

慌ててティッシュで零した液体を拭き取る本城が、隣に座る彼の異変に気付き、不思議そうな声を上げる。
そして、肩に手を置いた瞬間、ビクリとした反応を示された挙句、指の隙間から見えた瞳が濡れていたので、思わず本城が息を飲む。

「四柳……」
「……。……」

瞼を覆っていた手を本城が柔く掴んで顔から離させ、少しだけ身を乗り出して自身が触れさせた唇が当たる所は、彼の唇で。
軽いキスを施した後、もう一度確かめる様に、今度は押し付ける勢いで本城が唇をぶつければ、頬を叩く音が部屋中に響き渡る。

『お前の、そう言う冗談は大嫌いだ!!』

「四柳さんは、今度の本城さんのお誕生日に何を用意します?」
「……えっ?」
「もう忘れたのか、四柳。物が被ると厄介だから、聞いて置きたいと克哉が言い出した話をしただろう?」

思考を現実に戻された四柳は、慌ててそうだったねと二人に頷く。
そして、少しだけ気恥ずかしそうに首裏を擦ると、僕は鞄を買ったよと話す。
雑誌を読んだ本城が、これ欲しいから買ってくれよと、冗談めかして四柳に言っていたから購入に至った訳だが、今までの言動を振り返れば振り返る程、いつだって冗談が多いのが本城と言う人なのだろう。
悩み過ぎて痛くなりだした頭を抑えた四柳を、目の前に座る克哉が気遣う台詞を告げれば、渇いた笑いを彼が零しながら

「はぁ……。早く冗談と本気の境目が知りたい」
「「……?」」

『最初から、本気だよ。何で、解らないの?』

それなら、もう少し解りやすくしろよと、心の中で悪態を付く四柳。

『返事は、僕の誕生日に聞かせてくれ。勿論、良い返事をね?』

最後にタクッと、四柳が苦笑を漏らして

『……。返事位なら、今でも出来る。僕は、君が……』

“好きだ”

二人の幸せとは、また違った幸せを噛み締めていた。

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