main story☆

□嘘
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あの日、二人で見た空の色を
貴方は憶えていますか・・・・・?


【嘘】


段々と気温が高くなり、じめじめした梅雨の
季節から、蝉が泣き、あちこちで緑色の稲穂が夏風に吹かれ踊る季節になった。

しかし、そんな風流なものなどに耳や目を傾ける暇など、今の俺様・・・
嫌、俺様たちにはなく今は一刻も早くこの乱世を終わらせることに専念しなければならなかった。
立派に立派に育って何百年とそこに立っているであろう木の枝を
普通の人間ではとても追いつけないような速さで駆けながら、
鴉にのれば速いのに・・・
と今は怪我をしていて使えない鴉と修理中の凧のことを思う。

そして、態々自分の足を使って、ようやく
無くさないように汚さないようにと慎重に持ってきた書状の送り手の場所へとやってきた。
幾重にも幾重にも厳重に警護された城。
そこを自分はいつもの様になんなく突破し、城の中へと侵入する。
そして、この書状の届け主の部屋の真上に到着し、部屋の畳の上に着地をしようと天井の板を外した。すると・・・

「Hey、久しぶりだな真田の忍・・・・」

いつもいつも来るたびに気配を見つけられては引き釣り下ろされるから、今日は気をつけようと
何時も以上に気を引き締めて気配を消していたにも関わらず、それに目ざとくも気づく、この米沢城の城主で今回の書状の受け取り人伊達政宗。

「あはは、流石は龍の旦那・・・か。久しぶ りだねw」

「いいからさっさと降りてきやがれ、そこに いられたら気が散んだよっ・・・」

「あーー、うん・・・w」

この豪族達が争い、荒れに荒れていた奥州を19という若さでまとめあげた天性の才能を持つ奥州の龍。
そんな恐れ多くも偉いお方と自分のような人にもみたない存在が、何故こんな親しいかのような会話をしているか。
それを話すと長くなりそうだから、その話はまた今度にしておくとして、
まずはこの龍の機嫌を取る為に真下に見える畳へとスタッと着地する。

「で、今回は偵察か・・・・?」

「嫌、今回は書状を届けにね・・・」

そう言って、大事に持ってきた書状を取り出し、後ろ向きに座っている龍の旦那に対しス
ーッと畳の上に置く。それを彼はちらっと横目で見て振り返り、書状を手にとって読み始めた。

「・・・・相変わらず、汚ねぇ字だな;;」

「・・・;; ごめん、旦那・・・(汗」

龍の旦那の達筆な字に比べ、直情的な主の字はよくはね、よく曲がり、よく滲む。
そのせいで何時も何時も書状を受け取る龍の旦那には苦労をかけてしまうのだ。

「Ah〜、分かった。返事すぐ書くからそこで
 待ってろ」

「うん、それじゃー・・・お言葉に甘えて」

そう言って、龍の旦那はまたこちらに背を向け返書を書き始めた。
そして、そんな背をすることもないのでじーっと見つめていると・・・

「気が散るから、こっちみんな・・・!」

と、怒られてしまったのでとりあえず綺麗に整備されている庭を拝見することにした。
ぴしっと、外と中を隔てるように閉まっているが微かに漏れる夕日の色になんとなく心を躍らす。
そして、すーっと音をなるべく音を立てないように開けると・・・・

「わっ・・・・・」

目の前一杯に茜色がぱーっと広がった。
いつもは、密書やそういうものばかりを持ってくるから真夜中にやってくる。そのせいか
、こんな目にも残るような光景は見たことが無かった。

「ここから見る夕日、俺も好きだぜ」

「! 龍の旦那・・・・」

余りにも見惚れていて、龍の旦那が動いた気配を感じ取れなかった。
これじゃー、忍失格だろ・・・と思いつつさっきの龍の旦那の言葉に言葉を返す。

「へぇ、それは・・・知らなかったな〜〜」

「だろーな、てめぇは何時も真夜中に来るし・・・朝日も見ずに帰っちまうからな・・・」

静かに静かに、心にストンと落ちてくる言葉
。それを今、龍の旦那はどんな顔で言ってるんだろう、と気になって隣に並んだ旦那の顔をちらっと見る。
するとそこには茜色に染まりながら切なそうに目を細めて見る旦那の姿があった。普段、そんな顔は滅多に見ないから正直・・・驚きを隠せない。

「龍の旦那・・・・?」

「・・・佐助、お前の色だな」

「・・・・えっ?」

「お前の・・・、色だ」

茜色に染まるこの場所で、花の様にこちらを向いて顔を綻ばせながら言う龍の旦那。
二人っきりでほんのきまぐれにしか何時もは呼んでくれない名で俺様を真っ直ぐに見つめて言う旦那。
その姿に・・・、今にも耐え切れなくなってそっとそーっと、龍の旦那を抱き寄せた。

「・・・・佐助?」

「・・・ねぇ、政宗」

小さく小さく、耳元で囁く貴方の名前。
それを一寸も聞き逃すまいと耳を傾ける龍の旦那。幸せ・・・っていうのはこうことを言うのだろうか。

「何だ・・・・?」

「・・・また」

「また・・・?」

「また、一緒に・・・夕日、見れるといい  ね」

「!・・・・そう、だな」

段々と、日が沈み欠けていく夕日に対し、
どんどんと上りゆく丸い丸い月。
日がまた昇るように、日はまた沈む。
その理と同じように、会ってしまったら必然的に別れがある。

「龍の旦那・・・、俺様、そろそろ帰らない と・・・」

「・・・I see、書状はもう出来てるぜ。ほ
 ら、持ってけ」

「・・・・ん、有難う」

本当は、本当は、ずっとここにいたいけど、そんなことは出来やしないのは俺様たちが一番良く分かってる。
だから、だから____、

「政宗・・・・」

「何だよ・・・、帰るんじゃねーのか?」

「うん・・・、政宗・・・」

「っ、だから何だって聞いて・・・!」

「またね、また・・・この夕日が見える時間 に」

「! っ・・・さすっ」

何時も何時も、貴方には別れは告げれないから、せめて今日今この時だけでも・・・、貴方に別れを告げたい。
そう思って、言の葉にのせるとするっと唇から零れる言の葉。
いつもは言えない癖に、こういう時に限ってスルリと出てきてくれる言葉に若干感謝して、旦那が防ぐ言葉を聞かずに城を後にする

別れ際の刹那に大きく見開かれた瞳と夕日を見る彼の横顔を脳に焼付け、任務を遂行したことを告げる為、
俺様はまた鴉と凧を使えないことを嘆きながら、甲斐にいる主の場所へと急いだ。



(貴方はきっと、この約束を忘れてしまうだろうけど

        私はずっと胸に抱いて、今日もあの日を思い出します。)
 

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