復活 short

□君の望む世界で
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「私がカミサマだったら」

「こんな世界は、創らなかったよ」


「……。…は?」
「やだなあ。そんな反応が1番困るんだよ」
「いやいや。そんな中二病みたいな発言こそ困るから」
「あはははは!」
「いやいや、そこ、笑うところじゃないから」

暗い回廊。しん、と風が静かに突き抜ける前も後ろもただの直線通路。
思い出したように上から吊り下がった明かりも、私達がいるところには忘れられていて、ただ暗がりだった。

「だってさ、1番賢い人間が、1番愚かな行為してるんだよ?」
「……」
「動物が共食いしたり、弱肉強食の世界であるのは当たり前じゃない。だって、本能に従って生きているんだもの」
「…で?」
「人間は『理性』を兼ね備えながら、自分の意志で同族を嫌悪して快楽のままに殺すの。これほど愚かしいことはないわ!」
「…言いたいことはそれだけ?」

まだまだあるの。言及し足りないの。
まだまだ、未練があるのよ。

「しかも、『戦争』という手段を用いることでしか勝ち得ない。皮肉よね!1番勝つべき『戦争』という対象には全然勝てない。対決するしてない。勝負の対象とすら、わかっていないの」

ホモ=サピエンスとか、ホモ=ファーベルとか、まるで人間至上理知主義。
動物特有の本能に忠実な生き方を愚かと捉え、理性の存在に自分達は違うのだと、他者をけなして自分達の素晴らしさに酔いしれる。
一番愚かなのは、私達だ。

「下らない理由や、むしろ無差別に殺して自分の欲望を埋めたり、見えない恐怖から抜けようとする人間なんて、きっと"全て"より愚かよ。呆れてものが言えないくらい」
「…言いたいことは、それだけ?」
「…いいえ。まだあるわ」

安全装置の外れた黒塗りの銃。狙うは生命の根源、心臓。そして、精神の源、頭。
左も右もすら、不明にさせる狂気の闇夜で、寸分のズレすらなく、目標を真っすぐ見据える。

「私がカミサマだったら、動植物を虐殺する心は切り離した。罪を犯すことに陶酔する精神はオプションとしてつけなかった。浮気や不倫といった片方を苦しめる恋なんて、溶かしてた。
愛し合う二人が殺し合う、そんな世界は、創らなかった」
「……」
「独りぼっちの夜の後に、割と良い朝が来ても、結局、独りぼっちには変わらない。何かに拝んだところで、願いは叶わない。
それなら、孤独には温情を、願いには祈りを。いずれ独りぼっちになっちゃうなら、最初から二つ合わせて孤独から解放する。
孤独と孤高は違うの。似てて非なるものだから」
「……そうであったところで、世界は変わらない」
「ええ。変わらないかもしれない。でも、変わらない可能性が無に等しい訳でもない」
「…俺は、…君を信じない」
「信じなくてもいいわ。疑われることは十分やってきたもの。
だけど、私は貴方を愛していた。
これは、…貴方が否定しようがしまいが、私の中では事実」
「…おしゃべりはもうおしまいだ」
「ええ。そうね」
「…俺は、…信じていたかった」
悲痛な叫び。虚偽で幾重にも本心を隠し包めた彼は、最後の最期に個人としての本心を吐き出した。
気付いていなかったが、これは彼の最後の餞であった。

それを聞いた彼女は内心、驚いたが終始笑顔で彼を視界にいれた。最期に、脳裏に焼き付けて。

「…来世こそ、貴方にとって生きやすい世界でありますように」

男の胸を目指していた銃口を自分のこめかみにピタリとつけて、彼女はこの世界と別れを告げた。



「…君の望む世界で、今度こそ、二人で」

血濡れながら安らかに微笑んで、熱を空気に放出して女はこの世界から消えた。

男の目からは、ひとつの涙。
それ以外は許すことなく、彼女をそのまま置き去り、男は世界で無機質な呼吸を続けた。



∴君の望む世界で


イメソン『世/界/が/終/わ/る/夜/に』
(チ/ャ/ッ/ト/モ/ン/チ/ー)

この歌が大好きです。世界観が表現できなくて残念。
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20110604.

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