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□The kiss is unnecessary for snowwhite
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The kiss is unnecessary for snowwhite



雪のように白い肌に、木炭のような黒い髪。血の如く赤い唇をもつ、美しいその人は。
『白雪』と呼ばれる、世にも美しい、私の――――――

* * *

「おうじ」
「あ、白雪くん」

メールを打つ為に俯けていた顔を、耳慣れた声につられて上げると、少し小走りに近づいてくる姿が見えた。いつもは透けるように白い肌が、今日はほんのりと赤い。相変わらず寒さに弱い人だ。彼に送るつもりで打っていたいたメールは消去して、ぱくんとケータイを閉じた。
私の目の前まで来て、白雪くんはその形のいい眉を困ったように八の字に下げた。

「ごめん、遅くなって」
「ううん」

今日は早かった方だよ、と笑ってみせる。まだ予定時刻から20分しか経っていない。最長2時間の待ち時間を経験したこともあるのだから、これくらいは余裕だ(ちなみに、白雪くんに非はない)(彼はどこを歩いても誰かしらに捕まってしまう人だから)
それでも、彼はふるふると首を振って、私の頭をくしゃり、軽く撫でた。彼がごめん、と言い足りない時の癖だ。私は、白雪くんのこの仕草がすごく好きだ。不器用な想いの伝え方は、その分まっすぐに届くから。

「行こうか」
「うん」

並んで歩きだすと、寒空に冷やされた風が二人の間を通り抜けて、思わず二人して肩を震わせる。首まで竦めた白雪くんは、ほぅ、と真っ白な息を灰色の空へ浮かべた。ゆっくりと溶けていくそれを見ていたら、私の視線に気付いた彼は照れたように寒いな、と笑った。唇で綺麗に弧を描くその笑顔は、冬の凍てついた空気の中でも尚柔らかく見えてしまうのだから、私も大概絆されてると思う。
ふと、視界に小さな白い光が舞い込んだ。それは灰色の空から零れ落ち、瞬く間に地上を騒がせる。

「………雪」
「だねぇ」

どちらともなく足を止め、今冬三回目になる雪たちを見つめた。

「……冷て」

ぽつり。呟いた彼に視線を戻すと、白い頬に更に白い雪が一粒乗っていた。不愉快そうに眉間に皺を寄せた白雪くんは、折り込んでいたセーターの袖を引っ張り出して、乱暴に頬を拭う。そして、袖の中にすっぽりと隠した指先に、はふ、と息を吹き掛けた。よっぽど寒いらしい。

「手袋は?」
「忘れた」

寒がりなくせに、こういうとこ抜けてるんだから。
仕方ないなぁ、と笑って、ポケットの中から私を暖める熱源を取り出した。

「カイロ、貸そうか?」
「………」

はい、と差し出すと、ちらりとそれを一瞥した彼はとっても面白くなさそうにむす、と口をへの字に曲げた。
……私、何か間違ったかな?

「……いらない?」
「………そこは普通、手でもつなぐ?ってなるもんじゃないの」
「え、そういうのって男の子が言いたいものだと思ってた」
「………」

あ、すごく傷ついた顔。

「えっと……」
「……」
「あのね、その……」
「…………なあ」
「は、はい」

必死にフォローするための言葉を探していたら、俯いた彼が、ぼそりと。

「そういうこと……言えたほうがいい?」

不安げな声が、周りの喧騒に掻き消されそうな音量で囁く。人混みに取り残された迷子みたいな目が、ちらちらと揺れた。
ああ、違う、違うよ。ねぇ、白雪くん。そんな顔しないで。

「おうじも、やっぱり」
「手、つなごうよ」

それ以上言わせたくなくて、彼の了承も得ぬまま、男の子にしては細すぎるほど華奢なその指先をセーターの袖に隠された上から握った。
ぽかんとしていた白雪くんは、それでもやっぱり瞳を揺らして、俯いたままだ。

「………なんか、やらせたっぽくないか?」
「ワガママだなぁ」
「………」
「嘘、ごめん」

ぎゅう。
やっと握り返された指先を、そっと宥めるように撫でる。

「白雪くんは、そのままでいてね」
「……さっきは、ああ言ったくせに」
「あれは一般論でしょ。私たちは私たちでいいじゃない」
「調子いい」
「どっちが」

するり、セーターから出てきた微妙にぬるい手が、私のきんきんに冷えた指先をふわり、包む。

「冷た」
「カイロ、貸そうか?」
「いらない」
「そう」

白雪くんの手の熱はすぐに私の指先に奪われて、それからじんわりと二人分、ちょっと熱いくらいの暖かさが配分されていく。
ふふふ。
何、いきなり笑ってんの。
んーん、何でもない。
あ、そう。
ふわふわ。白くなった言葉が冬の空気に溶けていく。

『王子様じゃなくていいよ』
そう言った自分の言葉を、反古にするつもりはない。
名前と、容姿と性格のギャップにコンプレックスを持っていた白雪くんに言った一番正直な声を、私はまだちゃんと覚えてる。そう、あの日私は確かに言った。約束したんだ、目の前の彼と。
『いじわるな継母も毒りんごも硝子の棺も、魔法のキスもいらないの』
約束したんだ、他でもない自分自身と。
『王子様じゃなくたって、私は白雪くんが好きだよ』

雪のように白い肌に、木炭のような黒い髪。血の如く赤い唇を持つ、美しいその人は。
ヘタレで乙女で、強情っぱりで不器用で。子供みたいに柔らかく笑う、ごくごく平凡な、その人は。
『白雪』と呼ばれる、世にも美しく、実に平凡な。

「おうじ、若王子」
「うん?」
「………寒いな」
「そうだねぇ」

御伽噺のお姫様にも負けない
私の、可愛い恋人、なのです。



―――――――――――――――


雑賀浅波さんに捧げます。
バカップルで、というご要望だったので自重せず書いたら大変なことに……リア充め!!
ちなみに彼ら、白雪くんと若王子ちゃんというなんとも安直な名前となっております。
【急募】名付けセンス



オフ友でもある白さんから頂きました\^^/
柔らかタッチでカステラのようなフンワリしててそれでいてしっかりとした充腹感。そんな雰囲気を纏う彼女の文章がすっきです。
サイトするようになったのも彼女の影響。刺々しい意味不明満載な雑賀の文章、これでも白さんの文章に影響受けてます。←ほんとだよっ
交換するように雑賀は白さんに『蝶よ花よ、君よ』を捧げましたが実力の差が顕著に!(やっぱ白さん描写には負けてまう)
いつまで経っても白さん大好きだぜ!
白さん素敵な文章ありがとう!


ぅp 20110306.

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