復活 short

□どうか、どうか
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「こっちへおいでなさい。そちらは、危ないだろう?」

熟れた蜜柑色を背景に優しげな芒(すすき)色が映えていらっしゃいます。

珍しく眉目を寄せておいでですが、何を心配されていらっしゃるのでしょう?
今の私(わたくし)には、皆目見当もつきませぬ。


いいえ、いいえ。
危うくなどありませぬ。
貴方様は私の心配などなさってはいけないのです。
ですから、どうか、どうか。

「何を希う(こいねがう)のです?」

貴女は俺の秘書で恋人で婚約者でしょう?

いいえ、いいえ。
それは、形だけのものにござりましょう?
貴方様が本に愛していらっしゃる方は、貴方様と同じ髪色をお持ちのあの御方。私ではござりませぬこと、私は存じておるのです。


愛し合っている二人を引き裂くような私の存在。
相望んだ場所ではござりませぬでしょうに。御慈悲深い貴方様のこと、仕方なく甘受していらっしゃるのでござりましょう?

それを御承知の貴方様、何をおっしゃりますか。
貴方様はこの私の登用を酷く拒んでおいででしたのに。
今更何をおっしゃるか。



嗚呼、嗚呼。
貴方を愛してしまったこと、これこそ私の咎(とが)。

申し訳ござりませぬ。
貴方様にも御迷惑をば。
彼の女性にも御迷惑をば。


私はその罪を償わなければなりませぬ。

どうか、どうか。





どうか、どうか、。


されば、貴方様は忍ぶあの方と晴れて結ばれ良縁を築けるのです。

されば、私は貴方様から解放されて、自由の身となるのです。

されば、この狭き世界の均衡は崩れることなく在り続けるのです。

どうか、どうか。


夕焼けを背に私を殺して下さいまし。


→解説


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