復活 short
□彼が在るなら私は
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怖いのです。
貴方がいなくなるのが。
私がいなくなるのは構いません。
ですが。
貴方がいなくなるのは、――。
* * *
真夜中に目を覚ます。
――任務の時間だ。
長いパジャマ変わりのワンピースを脱いで、着慣れた黒のタートルネックに黒のショートパンツと黒のパーカーを着て黒のニーハイソックスとニーハイブーツを履く。
それでも、外は寒かった。
* * *
ボスからの任務は大抵夜中。しかもその夜中というものが、俗に言う『丑三つ時』で、辺りは風に揺れる草の音しか聞こえない。
――おかげで昼間に会う恋人との逢瀬が少し辛い。
睡眠が足りず、ふらふらするけど、コンシーラーで隈を隠して、チークとファンデーションで肌色を隠して会うのだ。
まぁ、多分、彼にもばれていないだろう。
――さっさと片付けて帰ろう。そして、早く帰って、寝て、明日彼と買い物に行こう。そんで、一緒の布団で寝るのだ。
何も感じることなく愛用の40口径銃のトリガーを引く。
嗚呼、夜中じゃなかったら消音器(サイレンサー)なんて外して、愛してるこの孤高の音楽を聴けるのに。
鮮やかな紅が動かない人だった『もの』を染め上げるのを確認して、念の為、と脳天に2、3発打ち込む。
終わった。
帰ろう。
くるりと『紅』に背を向けると、
既視感ある、銀。
いつも感じる、葉巻の薫り。
いつからそこに?
私の頭は冷静で、危機感なんて言葉、どっかに飛んでいた。
「お前がジナイーダファミリーの【音姫】か。
ここで、果てろ」
私を落ち着かせる、あの、声。
スローモーションで私に向かうダイナマイトを銃で打って、爆発と共に部屋を出る。
そんなそんな。
そんな馬鹿な。
だって、彼は、隼人は、
『俺?…俺は、…ボディーガードだ…』
「待ちやがれ!」
後ろからダイナマイトが迫る。
嘘だ嘘だ嘘だ!
後ろを向いてダイナマイトを全て撃ち込む。
彼には、隼人には当たらないように。
ドンッ。
足が縺れて(もつれて)前に転ぶ。
ふかふかのカーペットがじんわりと紅くなる。
――嗚呼、撃たれたんだ。
意識が遠くなる。音が、聴こえにくい。
隼人が、見えなくなる。
「ここでお前は果てる」
頭がひんやりする。
ああ、私、死んじゃうんだ。でも。
いつもの葉巻の薫りに包まれて果てるのもいいかもしれない。
それに、貴方が生きてるなら、別にいいや。
先に、逝くね、隼人。
嘘ついてて、ごめんね。
愛してた、よ。
最期の言葉は、彼に届かない。
彼が在るなら私は
私は別にいい。
けど、君だけは。
私は瞼を閉じた。
end.