小説【砂漠物語】

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繁華街から離れたとはいえ街を出たのは夕方すぎです。…結局先に進む事が出来ず また元の街に戻って来る事になりました。先程のような事になりたくないと今回は裏通りの方を通り運よく見つけた宿に泊まる事になりました。


『さっきみたいに変な目されないかなぁー。』


『結局さっきは理由も聞けず終いでしたからねぇ…もし宿の人が同じような行動でしたら理由を聞けば良いのですし…いくら何でも客に対してあんな目を向けるヤツは居ませんでしょう。』


さっきの居心地の悪さが身に滲みて宿の人も同じ行動なんじゃないかとジェラードは街に戻ると言う時点で不安気でした。実を言うとジェラード自身、別に野宿でも良かったのですが……アラゴンとベネットが“今日は宿に泊まる”と引き下がらなかったので野宿にはならなかったのです。理由は至極単純回答――自分達が付いてるとは言え女のコであり、ましては姫であるジェラードを夜の砂漠で野宿させる事は護衛として仲間としてものすごく不安だったからです。だからもし宿が近くにあるのだったら例えどんな状況であろうと野宿は避けようと極力努力するのが彼等。



『あぁ〜何かヤダなぁ。』


“明日までの辛抱ですよ姫さま”と言いながら宿の扉をアラゴンが開けます。宿はこれといって風変わりなところはありません。和風の温泉宿でもご想像頂ければ概ね間違ってはいないでしょう。普段からあまり客の出入りが少ないのでしょうか…受付椅子には誰も座っていません。べネットが口をひらきます。

『…………留守か?』


『いや…そいつぁねぇだろ…すみません、どなたかいらっしゃいませんか?』




『『『………………』』』


シーンとした空気、誰かが居るような気配は全くありません。

『買い物でも出てんのか?』

『アラゴン私疲れた!早く寝たい〜!!!』


『困りましたねぇ。受付しないと部屋に上がる訳には…………っっ!!』


カタンっと二階から物音がしました。咄嗟に身構える習慣のついてるアラゴンとべネットですが ここは一般の宿です。刺客なんていたら堪ったもんじゃありません。

『あれ、お客さん?ごめん気付かなかったよ』

二階へ続く階段から降りてきたのは顔中そばかすだらけの黒い小さな男の子でした。恐らく年齢は…高く見積もっても9、10といったところでしょうか。その子はパタパタと降りてくるとジェラード達の前で立ち止まります。


『よくこんな宿に泊まろーと思ったね!ここ裏通りじゃん?只でさえ最近は旅人なんて滅多に居ないからさ、こんな辺鄙な場所に泊まりに来る人はあまり居ないんだ』

“久々に客が出来て嬉しいよ”と微笑むと少年はアラゴンを一番年長者だと判断したのか受付へと促します。


『そー言えばお客さん達って何人…て……………あれ?』


何かに気付いたのか、少年は自分の人差し指を出しアラゴン、べネット、ジェラードの順に1…2…3…と数えました。


『さっ3人〜!?』

数えてから何秒停止したでしょう…多分10秒。その間何を考えていたのか。


『ちょっっ待っっえぇ!?3人っ3人なのお客さん!』

『あぁ…3人だが…何だよ』


先程の街人の自分達を警戒するような行動までとはいかなくとも彼の驚きようも また自分達に向けられたものです。


『しかも……お兄ちゃん2人に…小っちゃい姉ちゃんが一人…………んで、3人』

『小っちゃいは余計よ!』


育ち盛りの少女ジェラードは自分を幼く見られるのが何よりも大嫌いです。憤慨するジェラード、呆気にとられた表情をするアラゴンとべネットを交互にみつめ少年が独り言のように呟きます。


『いっやぁーでも分からないよ…うん多分違うよ…だってこの兄ちゃん綺麗だし この兄ちゃん背高くてカッケーし、この姉ちゃん…小っこいし……』


“小っさい言うなー!”ジェラード…最早王族の威厳すらありませんね。

『うん違うよきっと!うん違う違う!よしっ!んじゃお客さん部屋案内すんでこちらに――っ』


ブチッと何かが切れた音と同時にガシッと少年の胸元がアラゴンによって捕まれます。美青年の眉間に皺が寄った姿は非常に怖いもの。少年がひぃっと声をあげました。無理もありません。


『何一人で自己完結してやがんだ、あぁ?どーゆー意味か説明しやがれ』

静かに怒鳴るところが更に恐ろしい。自分より8、9年下相手に何て大人気ないのでしょうか。はぁっと溜め息をつきべネットが間を割って入ります。


『まぁまぁアラゴン、そう怒鳴るなって!相手はまだ子供だぜ?……なぁ、怒んねぇからさ…何で俺ら数えて驚いたのか教えてくんねぇか?』


『………………………』

べネットの顔を暫し見つめたあと、少年は視線を足元にうつし ゆっくりと語り始めました。


『お客さん達…多分この街の人間に変な扱い受けただろ?』
『あぁ確かに…この街の住民は俺達を見るなり警戒の目を向けてきたな……それが何だ?』


『……………………。』


アラゴンに胸元を漸く離され自由になった少年は自分の足元を見つめ、暫く黙っていたが決心がついたのかどうか定かではない瞳をして語り出しました。


『あの、…兄ちゃん達観光か何かで旅してこの街に来たんだよね?…何かそんなお客さんにこんな事言って良いか分かんないんだけど………気を悪くしたりしないでね。…あのさ、2…いや3ヶ月程前かな…この街は黒い“闇”に襲われたんだ。』



『『『……っ!!!』』』



少年の“闇”と言う言葉に3人はピクリと反応しました。



『まぁ今はその話は置いといて、この街にある日灰色のマントを羽織った男が現れたんだ。男は旅人だったんだ。ほら…今の時代旅する人なんて珍しいでしょ?だから街中あげてその男を迎えた…けどある日 その男は泊まっていた宿の人を20人程殺して街の子供も殆ど殺したんだ。最初は優しかったから男のいきなりの変わりように街中びっくりしたんだけど…後から分かった話、男は悪い魔法使いだったらしい。そして街中を混乱に陥れた後男は言ったんだ。








“これから3ヶ月以内に3人の旅人がこの街を訪れるであろう。名を“ジェラード”“アラゴン”“べネット”…彼等が来ると共にこの街は滅び彼等が話しかけた者には永遠の地獄が訪れるであろう”


『なっっ………』
『それって……』


『だから街の住民はみんな3人の青年・少女が来るのを恐れてるんだ。兄ちゃん達丁度3人だしね…でも違うでしょ?ジェラードとかべネットとかアラゴンって名前じゃないよね?』


『わざわざ良い方に考えもってくれてるとこ悪いんだけど私達は……っんぐっっ!』

ジェラードが自分達の正体を言おうとした矢先、右側のアラゴン…左側のべネット…両側から口をおさえられました。

『いやぁ!残念ならが俺らはそんな高級で立派な名なんて持ってないよな太郎!』

『あぁ人違いだな次郎。別に俺達世界征服するような願望を持ってる訳でもねぇしな!…っつー訳で…さっさと部屋貸しやがれ!!姫さ…いや花子さんがお疲れだってんだ!!』

べネットの咄嗟の偽名にあわせるアラゴンだが…何故日本の名前なのか…お二人共…センスが古い………。
どう取ったって怪しさに拍車がかるだけでしょうに…ですが少年は少しも怪しがろうともせずほっとした表情で3人に微笑みました。

『分かりました。こちらに御記名下さい。お部屋に案内させて頂きます。』


先程までの子供っぽい表情とはまた別にジェラードより年下だと言うのに立派な言葉使いで話を繋ぎます。



『ここになります。先程は変な話して申し訳ございませんでした…部屋は温めておりますので ごゆっくりおくつろぎ下さいませ』


部屋の前まで案内されると少年はまた微笑み 下に降りて行きました。アラゴンとベネットはその様子をじっと後ろから見つめます。

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