小説【砂漠物語】

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岡から降りて漸く街に着けばそこは市場でした。どこを見ても美味しそうな物ばかりが並んでます。それにジェラードは目を輝かせました。こんな賑やかな街ならば尚更でしょう。“やったご飯ー”と嬉しそうに駈ける…勿論アラゴンとベネットも慌てて追いかけ街に入ったのだが彼等がそのまま前に走り通る事はありません…いえ、出来ませんでした。


『……………………。』


ジェラード達が街に入った瞬間 今まで賑やかに話をしていた人々の喋り声がピタリと止み全員が警戒の目でジェラード・アラゴン・ベネットを見ていました。街に居た人々だけではありません。物陰から、扉の向こう側から…この街全てから視線を感じるのです。自分達が来た瞬間いきなりの出来事に一瞬躊躇したジェラードでしたがすぐに我にかえると一番近くに居た女性に話しかけます。



『あ…あの、すみません。私達は旅の者ですが宜しければ宿がどこにあるか教えて頂けませんでしょうか?』


するとその場全員の目が今度はジェラードが話しかけた女性に向けられました―何と言うか…こう…まるで憐れむような目で…。それに気付いた女性は何回も首を横にふり涙を流し叫び声をあげながらその場を走り去って行きます。

『いやああぁ!』


『あ、ちょっと!』
それが合図となったように他の人々も直ぐ様居なくなりました。――一番瞬発力のあるべネットが動く暇もないくらいに…。
ジェラード達だけがその場に取り残されました。シンと静まり返った街からは先程までの賑やかな繁華街の様子など想像もつきません。
『一体何が……………っ!?』


すると今度はいきなり大きな音が響きました。振り返るとどうやら先程まで開いていた窓が閉められたようです。続いてあちらからもこちらからも木霊するように窓を閉める音が聞こえました。ジェラード達ま唖然としてしまいます。







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自分達が街に入ってからと言うもの、今まで賑やかだった市場が嘘のように静まり返ったままです。そう、まるで廃虚のように…。同時に…前から…横から…自分達周り全てから焼き付くような視線を感じるのです。この沈黙・住民に一番にキレたのは やはりこのメンバーの中で一番短気であるアラゴンでした。

「一体何だってんだよこの街は!!!」
確かに今のこの時代、自分の住む都…生まれ故郷さえ持つ者であれば誰も好き好んでこの暑い砂漠を旅する者など居ないのです。ですからこの3人は他の場所でも多くの視線を集めてました。ただでさえ目立つ存在なのですから。まず立っているだけで人目を集めるアラゴンが居ます。月のように美しく光を放つ銀髪も知的なエメラルドグリーンの瞳もこれだけ砂漠に包まれた単街で拝める事なんて滅多にありません。その上これだけの美青年が敬語を使って、(実際同じようなものですが)まるで執事であるかのように遥かに年下であろうジェラードのお世話を何から何までしている姿を見ると誰もが振り返ってしまうのは当然の事でしょう。アラゴンに比べジェラードの黒髪も黒い瞳も、容姿自体は人目をひくまでには至りませんが彼女の着ている服は普通の国民がお目にもかかれないような王族が着る立派なアラビア・ドレスです。旅先で国民達からお金が欲しいとせがまれるのも日常茶飯事となりました。そして極めつけはべネットです。彼の腰にさしてある剣は一流の剣士にしか持たせられないとされている紋章が描かれてあります。年に西で1回行われる剣術武道会にでも行かない限り 剣士になんて会おう筈もありません。

そんな彼等なわけですから3人一緒に並んで歩くだけで必ず好奇の目を集めてしまうのです。ですが今回はいつも以上の視線が集まっている気がするのです。しかも好奇と言うより…警戒…と言った方が正しいような…それくらいのチクチクした視線。
「アラゴン五月蝿い!」

勿論アラゴンでなくともこの住民のただならぬ歓迎に苛立っていたのはジェラードもべネットも一緒です。まだ自分の心を抑える事を知らないジェラードは苛立ちを露にします。

「これ以上イライラさせないでよ!気がきかないわねっ!」

「も、申し訳ありません姫さま!ですがこの視線が姫さまのお気に召さないのではないかと…」

「つかスゲー歓迎だよな…俺らあんま好かれてない感じ?」

「もうヤダ!この街やっぱ嫌!今すぐ出て次の街に行く!良いでしょアラゴン、べネット!」


ついにジェラードは堪えきれなくなり、自分よりも幾分か大きい大人達に提案しました――この場合提案と言うより命令…でしょうか。


「仰せのままに」
「了解!」

元々ジェラードの我が儘でこの街に立ち寄ったのですけど…今はアラゴンもべネットもこの視線から逃れたくて仕方ありませんでした。

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