小説【砂漠物語】

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砂漠の暑い暑い砂の中を3人の若い青年と少女が歩いています。1人はキラキラと煌めくアラビアドレスを着ていますが頭にはドレスに似つかわない長いターバンを巻いていました。…また1人はその人をまるで砂ぼこりから守るように前に立ち、その美貌にはふさわしくない程の険しい顔をして歩く者…そしてもう一人は2人の何メートルも先を軽々しい足取りで歩いていました。丁度時刻は昼下がり…砂漠好きの旅人でも出歩きたくない程の暑い時分です。こんなに広い砂漠なのに彼等以外ここを歩いている人は一人も居ません。―――これだけ暑ければ当然でしょうね。彼等も限界なのかしんみりと会話もなしに ただただ旅を続けていました。暫し経った頃、ターバンを頭に巻いた少女が自分の前を歩く美青年に向かって叫びました。

「暑い暑い!アラゴンやっぱり私コレやだよ!暑いしむさ苦しいし汗は出てくるし少しも涼しくならないしっ!私コレ外すっ!」

すると前を歩いていた青年もこちらを振り返り同じく叫び出しました。

「何て事を仰ってるのですか!?ただでさえ暑いこの砂漠!特にこの時期は気温が高まって日光が強くなっているんですよ!?…日光防止もせずもし貴方が倒れられたらどうなさるおつもりなのですかっ!?」

「良いもん良いもん!そしたら良くなるまで寝とくから!」


今なら砂漠の上にラクダの肉を置いておくだけで焼き立ての美味しい料理が出来ると言うくらいの暑さだと言うのに双方とも引く様子は全くありません。


「そんな事仰ってはいけません!御母様がご覧になっていたらさぞ御嘆きになられますよっ!」

その言葉を聞いた瞬間…ターバンを巻いた少女の口がピタリと止まります。

「………ちぇ」
「良い子ですね」

子供扱いすんなとまた少女は叫び出しましたが先程までには至りません。
そこまでくると今まで話に参加しなかった前を歩く青年が何メートルも先から大声でこちらに話しかけてきます。


「おーいジェラード!アラゴン!遅ぇよ〜!」
「テメェまた姫さまを呼び捨てに……ジェラード様の事は姫さまと呼びやがれ!それからテメェは次の街でも探してろ!」
「だからー街見つけたんだって〜早く来いよ!」
「「まっ街!!?」」

その言葉を聞いた途端ジェラードと呼ばれた少女の表情は瞬時にぱぁっと明るいものとなります。アラゴンと呼ばれた青年とほぼ同時に思いきり前方に走り出しました。そして自分達に話しかけていた青年と同じ場所に3人並びます。目の先には街がありました。

「マジで…街だ」

自分の予想では次に街につけるのはまだまだ先だとふんでいただけにアラゴンは驚きを隠せません。


「街って事は…お肉…魚…ご飯〜!」

ジェラードはやっと涼しい場所でご飯が食べれる事に喜び街に向かって走り出します。衝撃を受け、石状態だったアラゴンも我に返りすぐに後を追いかけました。


「ひっ姫さま!お待ちくださいっ!あまり走られては…っっ!」
2人が一気に遠ざかるその背姿を一人ぽつんとベネットは見やり、やれやれと呆れたような顔をすると急いで2人の後を追いかけます。3人が居なくなると砂漠のその場所も一瞬で寂しくなりました。


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街はとても華やかで沢山の住民達の笑顔で溢れかえっていました。きっと平和で穏やかな街なのでしょうう。人ゴミは苦手だと言うアラゴンとベネットに比べ2人より幼い少女ジェラードはこんな街は久々だと興奮しています。



『素敵!なんて賑やかな街なの!私の国と同じくらい華やかかもしれないわ!』


『確かに賑やかですけれど姫さま…あまりはしゃぎすぎてはいけません。我々は旅を続けると言う使命があります。今日はまだ日があるのですから…少し休んだらすぐ街を出ますよ。』


ジェラードの興奮の仕様にアラゴンが慌てて止めにかかる。美しく煌めく金糸の髪に知的そうなエメラルドの瞳。綺麗に整った顔立ち…アラゴンは俗に言う美青年なのです。幼い頃は自国で神への生け贄にされそうになった事も少なくはありませんでした。本人にとってはとても傷付く思い出したくもない過去ですが、それだけアラゴンの美しさは群を抜いていると言う事なのです。そんな彼に話し…もとい注意されるだけで大抵の女性は失神物だと言うのにジェラードは長年の付き合いからアラゴンを異性として見ていません。きっと彼に反抗できる女性なんて世界にただ一人…ジェラードだけでしょう。今回も自分に指図するアラゴンを思いっきり反抗します。


『だってこんな賑やかな街久しぶりなのよ!?楽しまなきゃ損じゃない!?私今日ここに泊まりたい!ねー良いでしょべネット!』
『ははは!ジェラードに頼まれたらコリャ断れねぇな〜。まっ丁度俺も腹減ってたしな。良いだろアラゴン?』

べネットは自分より幾分か年下であるジェラードの事をまるで妹のように可愛がる節があります。ジェラードもそれが分かっているのか、何か困っている事があればすぐにべネット頼りです。勿論それを面白くなく思っているのはジェラードの幼なじみであり護衛役のアラゴンなのですが……。
今回も知らず知らずのうちに溜め息が出てしまいました。


『はぁ………。では姫さま。あまり目立たないよう心がけて下さいね。仮にも貴方は王女なのですから』

『はあぁいっ!』

渋々ながらも承諾したアラゴンを見てジェラードは喜びを露にします。結局何だかんだでジェラードには弱いのです。―――さぁ、街につけばご飯だ!
 

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