小説【どっちBOSSケット】

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これは…一体何なのだろう…。 初めに思ったのはこれだった。春の暖かい新鮮な空気が漂う5月、まだ買ったばかりのお気に入りの制服を身に纏い私は生まれてから一度として目にした事のない豪華な空間で大目玉を食らっていた。目の前の美形男の集団…。そして何より…今現在、私に向けられた言葉……。

「今日からお前がボスだ!」
そう…この言葉。
一体何がどうしてこんな状況になったのか…そして何故私がこんな目にあっているのか説明してくれる人がいるなら是非説明して欲しい。当人である私でさえ現状が理解出来ないのだから。私とおなじ紺色の制服に品のあるネクタイをした目の前の4人の男子生徒…今彼等の目の先にあるのは他の誰でもなく私なのだ。


『崇。いきなりそんな事を押し付けるから美緒が困ってるじゃないですか。すみませんねぇ…この男非常識なもので。』

謝るくらいなら早くここから解放して貰いたい。何ならもうこの人達を無視して逃げようか…。いや、無理だ。この広い部屋に一つしかない私の逃げ道は奴等の背中だ。はぁと思わず溜め息が出る。
『いやあの、自分には何が何だかさっぱり……』
『かっわゆいねぇ〜』
『っ!?』

訳が分からないと私が話せば後ろから思わぬ声が聞こえてきた。振り返れば青色のネクタイ…私と同じ一年生であろう男がいた。いやいやいやいや自分に可愛いて可笑しいだろ!はっきり言って私はお世辞でも誉められた容姿はしていない。目鼻立ちは奇跡的に整ってはいるが、それと言って特に目立ったところは無く、全てが平均的な大きさだ。元々オシャレに興味がなくて中学の頃も周りが洋服や化粧にお金を使うのにも関わらず自分だけは中華街を一人、食べ歩きをしたものだ。髪だって…私と同じ年の女のコはクルクルとお人形さんのようなヘアにしたりキラキラとラメの入ったワックス
(?)をつけたりしているけど私は暑苦しいのが苦手でサッパリとしたショートヘアだ。だから美形集団に囲まれた事も可愛いなんて言われたのも何もかもが人生初体験だ。(…それとも金持ちで美形の人達は生まれつき美的感覚がおかしいのか?)

『………下らんな』
は…はい!?今私の心の中を読んだのか!?…てかこの人やっぱり人間だったのか。会った時から全く喋らないから動くマスコット人形かと思った。口数が少ない方なのだろうか。ハーフなのかもしれない…日本人離れした銀髪に深緑の瞳。彼の眉間には皺が何本も寄っており会った時からこんなだから不機嫌なのかどうかが全然分からない。こんなのに睨まれたら例え悪い事してなくても謝りたくなる。いや、もう充分だ。自分はよく頑張った。もういい加減授業にも戻りたい。そろそろこの集団が一体何なのか聞かせてくれても良いだろう。

『……あの、一体何なんですかここの部活は……?』


だからさっきも言っただろうと言声が聞こえたがそんな事いつ言われたのだろうか全く記憶にない。あぁまさか私、美形に囲まれたショックで記憶力悪くなった!?…どこで間違ったのだろう。今日の昼休みまでは至って予想通りの学校生活だった。私が入学したのは都内でもベスト3に上がる程の名門金持ち校。幼い頃に父を亡くした私は母とマンションに2人暮らし。お母さんにこれ以上お金の負担をかけたくなかった。だから私は沢山勉強してこの学校の特待生入学をしたのだ。このまま頑張って良い職業についてお母さんに楽をさせるのが私の夢。都内トップの成績を誇るこの学校での勉強にもワクワクしていたけど何より友達との学園生活を楽しみにしていた。中学では男の子とサッカーや野球をしてばかりで女のコの友達なんて殆ど居なかった為、普通の女のコとの会話なんかも楽しみだったのだ。(一流金持ち校と言うだけで普通ではないが。勿論私が特待でなければ授業料どころか入学金すら払えない。)勉強と女友達との学校生活。期待に胸を膨らませていた今朝の心情とは180度違う。そもそもここは部室らしい。それも明らかに普通じゃない部活名。

『『『『ドッチボスケット部だ!!!』』』』


天国にいるお父さん…どうやら私は大変な学校に入学してしまったもようです………

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