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03/23(Fri) 00:25
幸恵

―序章―
   


やっと咲いた華だった。


控え目に、恥ずかしそうにだが微笑むその姿はまるで春先に芽吹いた一輪の華。


長い永い冬を越えて芽を出し咲き始めた華。


それを守りたかった。

守れると思った。


【ただ、君を・・・。】

山崎は約二ヶ月近くに及ぶ今回の任務から、満足出来る結果が中々上げられない事に考えを巡らせていた。
見つめる先には小さくも大きくもない、何処にでもある甘味茶屋だ。


そこは今現在、監察方を始め、新選組が一目置いている情報源。
茶屋には約一年前から新選組・監察方に在席している橘桜が約二ヶ月、ほぼ毎日潜っていた。
ここ最近の山崎の任務は彼女を見護りながらの報告の伝達だ。


考えを巡らせていると右端に浅葱色が入る。
今日、この大通りの昼の巡察担当は永倉率いる二番組らしい。


誰に聞かせるわけでもなく、山崎は溜息を吐いた。
そろそろ次の情報源に移るべきか?あの茶屋も潮時やもしれない…と。


そんな山崎の顔に苦笑いしつつ、永倉は彼と目配せする。山崎は今日も曇った顔を静かに左右に振り、その視線を茶屋に戻した。


永倉は山崎と擦れ違った後に右側に在るべき小さな気配がない事に気が付いた。
辺りを見回すが、探し人は見付からない。
永倉は隊士達に雪村を探すよう指示を出す。
よりにもよって、何故この場所で逸れてしまったのだと小さく舌打ちした。


浅葱色が散らばるのを確認した山崎は、何故だか嫌な予感がしていた。
だが町人に姿を化せている為、新選組に安易に近付く事は許されない。


すると一瞬、目的の茶屋に桃色が見えた気がした。



【まさかっ!?】



あの茶屋にはここ最近、頻繁に長州浪士と見られる者達が出入りしている。
その者達からごく稀に、雪村綱道の名前が出ると報告にあった。


コクリと渇いた喉を潤す為に唾液を飲んだと同時に、最悪を予感させる声が山崎の耳に微かに届いた。



【今、雪村君は何と叫んだっ!?】



自身の耳を疑いたくなるような声がもう一度、次はハッキリと届いた。
今のが間違いでないのなら、雪村が上げた声のお陰で大切な、唯一無二の仲間の命が脅かされた事になる。
だが山崎は拳を強く握り締め、まだ自分の持ち場から動かない。
彼女は、あの馬鹿な少女とは違う。
山崎は橘の機転の効く頭脳を信じて、時期を静かに待った。
まだ、自分が茶屋へ踏み込む時ではない。
永遠とも思える様な長い時間には焦りしか生まれなかった。
サラサラと、約二ヶ月かけた彼女の、そして監察方の努力が掌から零れて行くのが分かる。


こうなってしまえばもう取り返しのつかない事も分かっていた。
だが下手を打てば中にいる仲間とこの件の発生源の命はなくなるかもしれない。
歯痒い気持ちを押さえ込み、懐刀に手をかける。
いつでも踏み込めるように、と…

雪村は永倉の横を歩きながら、僅かに聞こえた父親の名前に警告を忘れて飛びついた。



【確かに今、この甘味茶屋から父様の名が聞こえた!】



何の考えもなしに茶屋に雪村は飛び込んだ。
中には浪士と思われる者達が数名いたが、その者から今一度聞こえた父の名に期待が膨らんだ。



「すいませんっ!雪村、雪村綱道をご存知なんですか!?」



勢いに任せて問いかけるが、浪士から返って来たのはなんとも悲しい言葉だった。



「あぁ?誰だ、てめぇ?」

「誰だ、こいつ?」

「おいっ!こいつさっき新選組と歩いてたの俺見たぞっ!?」

「何っ!?」



新選組と聞いた浪士達は湯呑みや皿がひっくり返るのも気にせずにガタガタと立ち上がった。



【ど、どうしようっ!?】



流石にマズイと気付いた雪村はやっと状況の悪さを把握した。



【永倉さんと来ればよかった…。】



しかし全て後の祭である。
自身に向けられた白刃と敵意、殺気に恐怖した雪村は奥歯をカタカタと鳴らす事しか出来ない。



【だ、誰かっ!?】



辺りを見回すが浪士から逃げる足音と悲鳴しか聞こえない。


そんな時、涙が浮かぶ瞳はとある場所に佇む姿を捉えた。
その顔を見て、安堵し、大きな声でその者を呼び助けを求めたのだった。



「桜さんっ!助けに来て下さったんですね!」



と…。



*********



店の奥で橘は先程仕入れた久方ぶりの有力な情報を文にしていた。
愛言葉を隠語にした、一見したらただの恋文だ。
墨が乾くのを待っていると、何やら店が騒がしい。
長年培った経験からか、もしくわ本能か。身体の芯が脳が警告音を鳴らす。
そっと暖簾(のれん)を潜り店内を見渡せば、そこに居るはずのない雪村の姿。
長州浪士に抜刀され、どうやら恐怖で動けないようだ。



【マズイ…。】



あの瞳を知っている。あれは何か縋(すが)る者を見る目だった。
そんな瞳と目が合ってしまった。
先手を打つより早く、安堵の表情をした少女は自身の名前を叫び、そして助けを求めて来た。


案の定、浪士達の視線を一身に受けた橘はそれでも冷静にまだ挽回の余地はあると切り返した。



『お侍様方、困ります。うちは茶店です…。殺傷事なら表でおやり下さい。』



礼儀正しく腰を曲げて頭を下げた。



*********



その姿を目にした雪村は唖然とした。
橘は雪村を助ける所か浪士に頭を下げたのだ。



「桜さんっ!何してるんですかっ!?新選組のアナタが、どうして頭を下げるんですかっ!?この人達は敵じゃないんですかっ!?」



橘の機転はまたもや雪村の無用な発言により、打ち砕かれた。

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