虚無

□青の風
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岩の月、12日。


この日、わたしは墓地にいた。

理由は、なんとなく。


レムやマキナみたいにほかのクラスの友達もいないし、知っている人なんてたぶんいないだろうけど

でもなんとなく、足を運んでみたくなったんだ。


「…そういえばあの日隊長、墓地から出てきたっけ」


隊長とわたしたちが険悪になり始めてから1ヶ月が経とうとしていた。

その間、わたしたちは任務を二つ終えたけれど

マクタイの奪還でひとつ、わたしは不思議な体験をした。



どこから弾丸が飛んでくるかわからない細い路地での戦いで、誰もウォールの魔法が使えなくて

ナインはそれでも強行突破で無理矢理行こうとした。

その時わたしは自動砲台がナインに照準を合わせたのを確かに見て

ナインを突き飛ばして盾になろうとした。

大丈夫、この角度ならかすり傷で済む…

しかし、そう思ったわたしの目に映ったのは、自動砲台の裏に隠れていた強化兵の姿。

近くでサイスが魔法を唱えていてくれていたけれど、絶対に間に合わない。

無謀に飛び込むんじゃなかった…

そう、後悔して目を閉じた瞬間


わたしは冷気に包まれた。


目を開けた先には、悲鳴を上げることもなく凍った強化兵のすがた。


「…サイス?今の…」

「…あたしが唱えてたのは雷だよ。氷は得意じゃないからね」



ナインが魔法なんて使うわけないし、近くにはブリザド系が得意なセブンもいなかった。

みんなは「必死すぎて使った本人も覚えてないんじゃない?」なんて言っていたけれど


「氷剣の死神、なんてかっこつけちゃって」

そんなケイトのことばを思い出したのは

実戦経験がないわたしたちの中で、あんな強い氷の魔法使える人、いたかな


そう、思ったから。


「アルファ、か?」


知らない人の名前が刻まれた石を見ながら歩いていたわたしを呼び止めたのは、隊長だった。


「…」


なんとなく気まずい空気にどう答えていいのかわからずにただうつむくしかなかった。

うつむいた先にある名前も、やっぱり知らない。

そんな名前を、一輪の花がそっと隠した。


「花を手向けに来たんだ」

「…友達、だったんですか?」

「ああ」


その人のことなんて覚えてるわけがないのに、隊長は即答した。


「…おかしいと思わないのか?」

「…わたしは、忘れることの方がおかしいって、そう、思います」

「…そうか」


少し離れたところにも同じ種類の花が置いてあった。


「この前…初めて会ったあの日も、花を置きに来たんですか?」

「そうだ。暇だったからな」

「今日も、暇で?」

「まあな。…お前こそ、何をしに来たんだ?」

「…ちょっと、暇で。隊長の暇とは、ちがいますけど」


隊長が、鼻で小さく笑った。


「…おかしなやつだな、お前は」


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