加地×日野小説
□恋人同士
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「大丈夫?香穂さん?」
すぐ近くの頭上から香穂子を心配する声が降ってくる。
「平気……っっっ!!?」
その声に答えようと顔をあげた香穂子は声にならない声を上げる。
突然押し寄せた人波から庇うように加地が立っていた。
たがその距離が…近すぎる。
それに加地の腕が人の重みに耐える為と香穂子のスペースを確保する為とで香穂子の顔のすぐ横を通り電車のドアへと突き立てられている。
キキーッ、カタタン…
電車がカーブを曲がる度に人の波が押し寄せ、その重みと衝撃で加地の顔が香穂子のすぐ目の前へと迫ってくる。
それこそ息がかかる程の距離。
「………っ!!」
このシチュエーションはさすがに心臓に悪い。
香穂子はとりあえず直視するのだけは避けようと顔を逸らそうと試みる。
キキーーーッ!!
まるでそのタイミングを計っていたかのように電車が大きく揺れる。
「っと!…急ブレーキかな?香穂さん大丈夫だった?」
加地が心配そうに声をかける。
けれど香穂子はそれどころではなかった。
先程の急ブレーキのせいで、かろうじて確保されていた加地と香穂子の間のスペースは失われていた。
そう、完全に加地と密着する体勢となっていたのだ。