リクエスト
□私を離さないで
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「香穂!」
後ろから土浦君の声が聞こえた。
でも足を止めることが出来なかった。
私はそのまま走り続けた。
とにかく、一秒でも早くこの場からいなくなりたかった。
「何してるんですか!?早く日野先輩を追いかけて下さい!!」
「あぁ。悪いな。話はまた今度だ!」
「はい。ちゃんと誤解を解いてきて下さい。日野先輩がいない土浦先輩に話しても何の意味もありませんから。私も後で日野先輩に謝ります。」
「ははっ!そうだな!ちゃんと誤解解いてくるよ。じゃあな!!」
2人がそんな会話をしてることなんて知る由もなく、私はひたすら走り続けていた。
♭♭♭♭
「香穂…お前走るの速すぎだろ……」
肩で息をしながら私の方に向かってくる土浦君。
「…なんで追いかけてくるの?あの子を置いてきていいの?」
結局私は無意識で走ったせいなのか、自分のクラスに駆け込んでいた。
そのせいで土浦君にもあっさりと見つかってしまったようだ。
「あのなぁ…別にあいつは何でもないって…」
「嘘!だって私知ってるもの!土浦君とあの子が仲良さそうにしてるの。冬海ちゃんも天羽ちゃんも見かけたって…」
私がそう言うと土浦君は少し考え込んだ後「あぁ…あの時か…」と1人納得したように頷いていた。
その反応が私をさらに苛つかせた。
「今日だって用事があるって言ってたのに…土浦君は私よりもあの子といる方がいいんでしょう!?だったらもういいよ…もう…!」
そこまで言って私の目からぱたぱたと涙が零れ落ちていく。
その様子を見て土浦君が驚いた顔をした。
「おい。香穂…!だから誤解だって!あいつはただの…」
「もういい…!土浦君はやっぱり可愛い子の方が好きなんでしょ!?私なんてもう放っておけばいいじゃない!!」
そう言って教室から、土浦君から逃げ出そうとしたけど…
「待てって言ってるだろ」
あっさりと土浦君の腕に捕まってしまった。
「離して…!離してってば!」
「だめだ。離さない。俺の話をちゃんと聞いてくれ、香穂。怒るのも泣くのも、その後だ。」
土浦君の体温を感じて、耳元でそう囁かれて…私は抵抗する力を奪われる。
泣くのは後。と言われたけど、もうすでに涙腺は崩壊していて止まりそうにない。
気がつけば私は土浦君の腕の中で子供の様に泣きじゃくっていた。
「香穂…ごめんな。不安にさせて…」
そう謝りながら、土浦君は私の頭を優しく撫でてくれる。
そうやってしばらくの時間が経ち、私の涙も少し落ち着きを取り戻した頃、土浦君が事情を説明してくれた。
「あの子は1年生で、同じサッカー部のヤツの妹でさ。ちょっと相談を受けてたんだよ。」
「…相談?」
「あぁ。なんでも兄貴が片思い中なんだけどイマイチ踏ん切りがつかなくて、見ていてイライラするから俺から何とか言ってくれ!って言われてさ…無茶な相談だよなぁ。」
そう言って苦笑いしている土浦君。
どうやらあの子は最近私と付き合い始めた土浦君から彼女のお兄さんへ彼女をゲットできるように恋愛のアドバイス的なものをして欲しい。という相談というかお願いをしていたらしい。
一度は断ったものの、あの子は諦めずに何度も頼みにきて、その熱意に負けて土浦君も相談に乗ってあげていたのだけど、ついお兄さんの話で盛り上がってしまって、端から見たら「楽しそうで仲良さげ」に映ってしまったみたい。
「人選ミスってない??」と「どれだけ面白いお兄さんなの??」いう土浦君と彼女のお兄さんにはかなり失礼な事をつい思ってしまったけど…
つまり今回の事は全ては私の勘違いだった。という事になる。
「そういうことだ。全く…何を勘違いしてんだか。」
呆れたように私を見てため息をつかれた。
「だって…土浦君が女の子と話すなんて…しかも楽しそうに話すなんて信じられなかったんだもん!!」
「おい…お前は俺を何だと思ってるんだよ…。まぁ、確かに女子が俺に話しかけてくる事も俺が話す事もめったにないけどな。…お前以外は」
そう言ってじっと見つめられる。
今更ながらの距離の近さにドキドキしてきた。
「つ、土浦君…?」
「なぁ。お前、わかってるのか?俺にとってお前が『特別』だって事。」