●Gift

□バカップル
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「う〜い〜ただいまー」


「おかえり、お姉ちゃん…って、その手どうしたの?!」



夕方、唯が帰宅すると同時に玄関で憂が迎えてくれる

これはいつものことなので、当たり前のように憂は唯の元へ。



「あ、これ?えへへー。突き指しちゃった」



帰ってきた彼女を見て驚いた。
右手の中指と薬指を中心に巻かれた包帯



「えへへー、じゃないよ!だ、大丈夫なの?痛む?」


にへらとおどけた笑顔を見せる唯とは対になるような、真剣な表情で慌てて駆け寄ってくる憂。


そんな、あまりにも心配そうな顔をしている彼女を見るとなんだかこちらの胸まで苦しくなってきてしまい、唯はおもわず苦笑いをしてしまう。



(突き指しただけなのになぁ………)


大袈裟だと思う反面、こんなにも自分のことを心配してくれているんだなと、嬉しさも込み上げてきていた。



「……うい」



いまにも泣き出しそうな憂の顔を優しく撫でて慰めていると、ふと唯の中に悪戯心が湧いて出た。


二人が、より親密になれるその悪戯を実行するのに、そんな時間はかからなかった。






「ご飯出来たよー」


「わーい!!」



夕食のため、唯を呼んでいつもの席につく。

さて、ここからが唯の悪戯開始みたいだ。



「いただきます……お姉ちゃん?どうしたの、食べないの?」



いつもなら自分よりも真っ先に手をつけるはずの唯が、食べようとしないので、憂は頭の中に疑問符を浮かべる。



「今日はお姉ちゃんの大好きなハンバーグだよ?お、お腹空いてないの?」


「ねぇ、憂が食べさせてよ」


「…え、ええ?」


突然の投げかけに、一瞬の思考が追いつかないでいたが、察しの良い憂はそれから直ぐに意味を悟った。



「そっか、右手使いにくいよね…」


視線を目の前の彼女の右手へと落とす。



「よし、それじゃあ…はい、あーん」



ハンバーグを食べやすい大きさに箸でとって、唯の前へ差し出す。
その頬がほんのり赤らんでいたことに少なからず唯は気づいていた。



「えへへ〜あーん…」


「美味しい?お姉ちゃん」


「むぐっ……おいひぃよ!!」


「よかった〜」



満面の笑みを浮かべている姉を見て、つられて自分まで笑顔になってしまう。


(うい…可愛いな……)


この笑顔が見たかった。

さきほど彼女に悲しそうな顔をさせてしまったのは自分だ。
だから笑顔にさせるのも自分であってほしいと、唯は心から願っていたのだ。


もったいない。

こんなにも、素敵で綺麗な笑顔を持っているのに、と心の中で唱えてみる。



「あ。今の台詞かっこよかったかも」


心で唱えたことを思い出して自画自賛。



「なにが?」


「っ、なんでもないよ、う、うい…」



一つが成功してしまえば、もっと欲が出てくるのが人間なのである。



「ごちそうさまでした」


「う、憂」



ちょうど食事が終わるころ、



「お茶飲まして?」


「お、お茶もっ?!」


「うん」



食器を片付ける前に言えてよかったと、ほっとする。



「お、お姉ちゃん………」


「もちろん、口移しだよね?」


「えっ…で、でも」



顔を真っ赤にして俯いてしまう彼女の頬に自らの左手を添えてぐいっと上を向かせる。



「憂」


「…っ!!」



名前を呼んでみると、びくりと肩を上下させてから、添えられた唯の左手に自分の手を重ねて優しく握り


「…お姉ちゃん」


「うい…」


「この左手が使えるでしょ?」



そのまま頬から引きはがされて、お茶の入ったコップを握らされた。



「お箸は左手じゃむりだけど、コップなら左手で持てるでしょ?」


「はっ!そっか!お茶なら利き手じゃなくても飲めるね!!」


「じゃあ、他のお皿洗っちゃうからね」



テキパキと食器を台所へ運んでいく憂の後ろ姿を一度見つめてから、右手を見つめ、軽くため息を吐いた。






「…こうなれば、最後の手段だ!」
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