Treasure

□こと様から
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※現パロ



風間千景は、私の幼なじみ兼学校の先輩だ。
小さい頃は歳の差なんてほとんど気にならなかったのだけれど、中学生あたりから少し気にするようになって、下の名前から名字で呼ぶようになった。
中学から急に私と彼の間に壁となった年上と年下の関係は、高校生になった今でも続いていて、私は時々もどかしさを覚える。昔はもっと近くに感じていた千景との距離が今は離れているから。


「お前はまだ剣道なんてやっていたのか」


私の背負っている竹刀を見て呟く千景。昔は千景もやっていたのだけれど、高校に入ってから辞めてしまった。まあ元々そんなに熱心な部員じゃなかったから、仕方ないのかもしれない。


「なんて、は酷くない?これでも私レギュラーなのよ」

「もうすぐ試合らしいな」

「…私の話聞いてないでしょ、風間」


相変わらずのゴーイングマイウェイっぷりに思わず苦笑する。身長とか小さい頃と比べたら色々変わっているのに、こういうところは大きくなっても変わらない。


「精々頑張るがいい」

「当たり前じゃない。──て言うか、何でそんな遥か上から人を見るのよ」

「お前だからだ」

「…意味分かんない」



溜息を吐く私をほっぽって、さっさと去っていく千景。本当に変わらないんだから、と小さく洩らして私は部活に向かった。



迎えた試合の日。
結構良いところまでいったのだけれど、惜敗。沈んだ気分のまま更衣室を出て試合会場を後にしようとしたら、見覚えのある後ろ姿が目に入った。まさか、こんな所にいるはずがない。そう思って目を凝らすけど、やっぱり『彼』だった。


「…風間?」


そう呼んだらのんびりした動作で千景は振り返った。


「何してんの、こんな所で」

「何をしているとは随分な物言いだな。──お前の試合を見に来た、それだけだ」

「え」


私の試合を?千景が?
同じ部活の時はそれこそお互いの試合を見たりもしたのだけれど──もう部活を辞めた千景が、わざわざここまで足を運んで試合を見てくれたなんて。ただのちょっとした気紛れだとしても、嬉しい。


「今日は惜しかったな」



普段より少し優しさを帯びた声でそう言われれば、試合が終わってからずっと我慢していたものが一気に込み上げてきた。なんで、千景の声にはこんな力があるんだろう。さっきの言葉はもう幾度と無く部活の仲間や見に来ていた友達に言われていたというのに、彼の声で言われると、感情が飽和する。


「…全力でやった結果だから、悔いは無い、わ…っ」


堪えているつもりだけれど声が震える。目頭がどんどん熱を持つ。
思わず俯けばふっと影が差す。それが千景の影だと気付くのに時間は掛からなかった。それでも顔は上げられなかった。──好きな人に、涙でぐちゃぐちゃの汚い顔なんて、見せたくないから。
早く泣き止まないと。そう思っているのに、千景がまるで壊れ物を扱うように優しく私の頭を撫でるものだから、余計に止まらなくなる。

ひとしきり泣いてようやく落ち着いた私は、真っ赤に腫れているだろう目を気にしつつ顔を上げた。案の定目が腫れていたみたいで、千景が兎の目みたいだと笑う。


「し、仕方ないじゃない!」

「帰ったら冷やしておけよ」


薄く笑みを浮かべ、私に背中を向けて帰ろうとする千景。
その背中に私は声を掛ける。



「──千景」


敢えて昔の呼び方に戻してみれば、少し驚いたような顔をしてふり返る千景。
それを真っ正面から見据え、私は口を開く。


「私、」



(千景のこと、好きだよ)
(…知っていた)


(20101229)
Thanks ポケットに拳銃
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