御伽話

□例えばこんな未来
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試合会場
懐かしい顔を見つけた

「やあ手塚」

軽く右手を上げ、俺に声をかけてきたのは中学時代、共に部活に励んだ仲間、不二だった。
身長は幾分か伸びたようだったが、ほっそりとした体つきは相変わらずなようだった。

不二はあの頃と変わらない微笑みを浮かべていた。

15歳

プロになるためドイツに来て10年。
もう俺は25歳になり、プロとして活躍するようになっていた。

不二とはドイツに行く前試合をしたきりだった。

高校、大学と学生選抜に選ばれたが、プロにはならず、出版会社に就職したと伝え聞いていた。


「久しぶりだな。」

懐かしくなって不二がいる観客席に、近づいていった。
幸い朝の早い時間だから他の報道陣に邪魔されることもなく不二の元にたどり着いた。

「うん、10年ぶりかな。僕はテレビで君のこと見ていたから、なんだか変な感じがするけど。」

そう言うと不二がクスリと笑った。

10年、逢わなかった時間が急速に埋まって行くような感覚だ。

心地いい不二の声

この声がなんとなく好きだった

「そうか」

「国光、打ち合わせの時間よだよ!」

不二との再会は短い時間だった。
マネージャーがベンチから俺に声をかけた。

俺は不二にすまないと告げて、コートこら離れようとした。

不二に背を向けた時、不二の声が聞こえた。


「暫くこっちにいるんだ、また連絡するから取材させてよ。」


俺は肯定の意味で左手を上げた。


手塚に十年ぶりに再会した。
身長も少し伸びて、中学時代よりずっと逞しい体つきになっていた。
ただ、厳しい顔つきは相変わらずで、なんとなく笑顔になった。

会社に入社して三年、プロテニスの担当になり、ドイツまで取材にやって来た。

手塚をはじめとした、日本人選手との交流があることからの大抜擢だった。


手塚に逢うのが本当は怖かった。

中学時代、僕は手塚が好きだった。

その気持ちが今も燻っているかもしれない

そう思うと、
気持ちをぶちまけてしまいそうだったからだ。

でも、違った。

手塚に逢っても大丈夫だった。
僕はあの時の恋心にちゃんと決着をつけられていたん。

ほっと胸を撫で下ろした。
手塚への気持ちは、恋じゃなかった。
憧れだったんだ。
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