妖怪奇譚
□第五話「きまぐれなAと霊感王子様」
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妖怪奇譚第弐部
第壱話
「きまぐれなAと霊感王子様」その1
何時の世も王者は孤独なもの…だから彼らが孤独であることは必然であった。
白い髪が風に揺れる…
瞳は不気味に金色に光る。
「見てみんしゃい。銀狐の奴怒ってけつかる。」
不敵な笑みを浮かべ、白髪の少年は背後に立つ相方の方を見た。
しかし相方は興味などないのか、彼のその手に捕らえられた、紅い塊を見るばかり。
栗色の髪が風に揺れ、その瞳は不透過の眼鏡の奥に隠されている。
「銀狐より重要なのは紅玉。
一刻も早く彼の元に持ち帰らなくては手遅れになってしまう…。」
栗色の髪の青年は眼鏡の奥に心を隠していたが、口調からは深い悲しみが伺えた。
「プリッ。柳生は真面目じゃのぅ。」
柳生それが栗色の髪の少年の名前だった。
「仁王君が不真面目なだけですよ。さぁ気付かれる前に戻りましょう。」
白髪の少年、仁王に柳生が声をかけると二人の姿は揺らぎ、その場から消えてしまった。
妖怪奇譚第弐部第壱話
「きまぐれなAと霊感王子様」
戦いから1週間、王子様は相も変わらず我が道を進んでいた…はずだった。
「おじ様、リョーマさん夕飯の準備が出来ましたよー。」
ここは越前家。
寺の御堂には越前親子がいた。
二人を呼びにやって来たのは、越前家に居候中のリョーマの従姉妹、奈々子。
黒髪ロングの美人女子大生である。
夕食の準備が出来たことを知らせにきた彼女の前には、床に俯せ、悔しげに父親を見上げるリョーマと、そんなリョーマを尻目にアイドルの写真集を見ている父南次郎の姿があった。
「おっもうそんな時間かぁ〜よっしゃリョーマちゃんご飯の時間よん★」
床に俯せたままの息子をそのままに、南次郎は食卓へと足早に向かった。
「にゃろう」
リョーマの悔しげな呟きが空の御堂に響いた。
今は学校も連休。
リョーマは南次郎に遊ばれ…もとい、修行をつけられていたのだ。
越前南次郎は悪霊、悪魔祓いのスペシャリストとして世界にその名を轟かせる、超有名な霊能力者。
しかし実は10年ほど前にとっくに引退済みで、今はしがない寺の雇われ坊主である。
「おば様今日も遅くなるそうですよ。」
コトリっ
越前家の食卓に色鮮やか料理が置かれて行く。
奈々子お手製の料理は絶品なのだが、和食好きのリョーマとしては今日も並ぶ洋食に少しがっかりしていた。
「ふーん…」
興味なさげに返事を返したリョーマは、今晩の食事に箸を伸ばした。
奈々子の言う「おば様」とは、リョーマの母親、南次郎の妻、名を倫子という。
ろくに仕事をしてないダンナに変わって一家の大黒柱として大活躍しており、仕事は弁護士で、そこそこ繁盛していたりする。
その代わり家には忙しくて帰ってくる時間もとても遅くなってしまう。
そのため奈々子が夕食を用意する事も多くなってしまうのである。
「ホァラ〜」
食卓に間抜けな声が響き渡る…
リョーマが箸を置いて、声がした方を見て…
「どこ行ってたんだよ、カルピン。」
と愛猫に声をかけた。
カルピンとは越前家の猫。
リョーマにとてもなついており、兄弟の様に仲良しである。
ただし南次郎にはあまりなついていないようである。
食事を再開したリョーマの足下にすり寄り、餌をねだるカルピンに、奈々子が夕食の皿を差し出した。
「そういえばおじ様、おじ様宛のお手紙が着てましたよ。」
皿を置いた奈々子は、南次郎の方を見て言った。
しかしその言葉に南次郎は特に気にとめた様子もなく答えた。
「また依頼状だろ?俺はもう引退したってのにねー。」
また…
そう、南次郎はとっくに引退した…
のだが、その世界ではそれでも南次郎の力を借りたいと言う人間が多い…
だから依頼状が今でも越前家には何通も届くのである。
「…おかわり。」
二人の会話もいつもの事でリョーマは気にせず奈々子に茶碗を差し出した。
中身は綺麗に空で、次のホカホカご飯を待ち兼ねている。
「はい。」
こちらも慣れたもので、リョーマの茶碗を受けとるとてんこ盛りにして、奈々子はまたリョーマに渡す。
「よく食えよ青少年。」
南次郎は我が子の食欲に感心しつつ、自身も食事を再開した。
翌朝〜
リョーマは目を覚ますと車の中にいた。