永い夢
□第拾玖話
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雨が降り出したその日、斎藤さんはいつもより大分遅くに家を出た
私がいつも家を出る時間に声を掛けたら、煙草の煙を吐き出してから「未だいい」だそうで…
それから斎藤さんは、また一度煙を長く吐き出して、部屋を出ようとした私を呼び止めた
「おい」
「…?」
私は、斎藤さんの背中に向き直る
「…今晩から暫く、警視庁に泊まり込む、夕飯は要らん」
「何日ですか?」
斎藤さんは吸い終えたのか煙草を灰皿でぐしゃりと押し潰してからこちらに身体を向けた
「…三日だな」
斎藤さんは呟く様に小さく言ってから、私に伝えた
「三日後に、帰る」
私は、こわかった
斎藤さんが仕事に行っている間に、雨が止んで…
―――私が、消えてはしまわないかと
そんな思いが顔に出ていたのか、斎藤さんにはいつもよりも幾らか優しく、私の頭を撫でてくれた
いつもよりも幾らか長く…
優しく…
「行ってくる」
…大丈夫だよ
大丈夫だよ、例え、雨が止んでしまっても、私は、貴方のぬくもりを、ずっと忘れずに生きてゆけるから
世界が消えてしまっても、きっと………大丈夫だよ
「行ってらっしゃい」
未来のない恋は
(記憶に刻み付けるだけ)