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トライアングラー
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学校に設けられている図書館は休み時間になると沢山の生徒がやって来てごった返す程に賑わう。
だが放課後ともなると生徒は早く家に帰りたいようで、あまり図書館にやって来る者はいない。
そんなもとの静かな姿を取り戻した図書館にふたつの影。


「………」
「………」


棚に並ぶ本の隙間から運良く、否二人にとっては運悪く目が合ってしまい、どちらも嫌そうな顔をした。


「なんであんたがここに」
「どうしてお前がここに」


二人の口から飛び出した台詞が重なると更にばつを悪そうにして睨み合う。
髪を軽くかきあげたレイコは大袈裟に息を吐き、本棚の向こう側にいるユウマを一瞥する。


「珍しいじゃない。帰ったら直ぐ遊びほうけてるユウマが図書館に来てるなんて」


レイコの言うように、ユウマは学校が終わればタクマを連れてすぐさま神社へ行き遊びまわる。
なので図書館に全く縁がない彼がここにいることは本当に珍しいのだ。
悔しそうにユウマは口を曲げ、負けじとレイコに言い返す。


「お、お前こそ!最近はあんこと一緒に帰ってたんじゃなかったのかよ!?」


確かに、ここ最近レイコはクラスメイトであるアコと共に帰ることが多かった。
それというのもショウが放課後になるとすぐに教室を飛び出して行き、アコが取り残されている隙をみてレイコが誘っているからだ。
元々ショウが転校してくる前はよくアコと一緒に帰っていた時もあったので、元通りになった関係にレイコは胸を撫で下ろしていた。
だが昨日、その短い幸せは破られた。
ショウがまたアコと帰るようになったのだ。
二人は楽しげに会話をしながら帰ってゆく、自分はその輪に入れない。


「…ユウマが知る必要ないわ」
「なんだよそれ!」


声を荒げるユウマを無視して背を向けた。
あの二人の笑顔を思い返せば胸が辛くなるのは何故なのだろう。
この図書館に来たのも、そんな二人の間に入るためだ。
昨日、捨てた筈のコートがどうのこうのと話をしていたから、何か協力できればと思い資料を探していた。
背後でぶつくさと文句を言うユウマを無視してレイコは再び探しているとふと目に付いた本があった。
「座敷わらし」が何とかというタイトルが妙に引っかかりを覚えたレイコはそれを手に取る。
普段ならこんな言い伝えのような話の本を借りることはない。
すると棚の向こうにいたユウマが「あっ!」と声を上げ、棚を回り込みレイコの側へ駆け寄った。


「それ探してたんだよ!」
「は?」


目を輝かせてユウマはレイコが取ったばかりのその本を見る。
何故ユウマがこの本を探しているのかを訊ねてみると、簡単に説明するとこういうことらしい。

偶然昨日、ショウとアコが話しているのを聞いたのはユウマも同じだった。
元々ショウにあしらわれているユウマはなんとか目を向けさせようと思い、彼が好きだという怪談話を仕入れれば話も盛り上がるだろうと。
なので「座敷わらし」と単語を聞いた時、詳しいことを知ってその話をすればショウとの関係もグッと近付くだろうと思ったらしい。
話を聞いていたレイコは厳しい顔をする。
やはり座敷わらしの話をしていたのか、自分に相談せずにショウには相談を持ちかけて。
「探す手間が省けたぜ」と嬉しげに本に近付くユウマ。


「嫌よ」
「は?」


しかしレイコはそう言うと本を持っている手を上げ、ユウマに届かないようにした。
これを読んでアコとの会話に入れるのなら今すぐ読んで知識を入れないと。
そうしたらショウからアコと離れさせることができるかもしれない。
ならユウマに渡すわけにはいかない。


「それ探してたって聞いてたか…?」
「だったら他の本探せばいいじゃない」
「それじゃないとダメなんだよ!」


渡してくれないレイコに苛立つユウマ。
彼としてもいち早く本を読んでショウとの会話についていけるようにしたかったので、ひとつの本を取り合うような状況になってしまった。
レイコが逃げてはユウマが追う、そんな必死ないたちごっこが図書館で繰り広げられた。


「私だって借りるもの!」
「いーじゃんかまた後でだって!」
「なら私の後にしなさいよ!」
「早く読みたいんだ!」
「聞き分け悪いわね、先に見つけたんだから大人しく引き下がりなさい!」
「いーやーだー!」
「ちょっと、離しなさいよー!」


静かな図書館に二人の怒声が響き、他にいた生徒が何人かが迷惑そうな目で見る。
その中には帰り途中に寄っていたショウとアコもおり、二人の様子を遠くから眺めていた。


「仲良いね、レイコとユウマくん」
「仲良くみえる?」
「うん、とっても」





優しく微笑むアコには、彼女らの苦悩は到底分からないのだろう。





fin.


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