* いろいろ *

□ * 拍手小話集 A *
4ページ/9ページ


* 雪の日の話 *





ある晴れた日のことでした。
二匹の虚が、空中から現世を見下ろしていました。
蒼く晴れた空は澄み渡り、切れ切れの雲が浮かびます。
その空に弧を描く鳥達すら避けて飛ぶ、横一本に裂けた穴から二匹は顔を出していました。
黒く大きな口を持つ虚が、言いました。

「美味そうな人間はいたか?」

長い角を額に生やしたもう一匹が答えます。

「いやせんねぇ。いるのはジジイとババアとガキばかりっすね」

格下らしい角の虚は、そう言って肩を竦めました。まだまだ人間くさい動作です。

「そうか。居たら真っ先に教えろよ」

餌探しを諦めた黒い虚は、ゴロンとその場に寝転びます。偉そうな態度ですが、こちらもまだまだ人間くささが抜けないようです。
角の虚は再び地上を見下ろしました。




ある曇り空の日の事でした。
二匹の虚が、空中から現世を見下ろしています。
蒼い空は濃い灰色に塗られ、今にも泣き出しそうな雲が、辺りを重く覆います。
その空を大きく割る、横一本に裂けた穴から二匹は顔を出していました。
黒く大きな口を持つ虚が、言いました。

「美味そうな人間はいたか?」

長い角を額に生やしたもう一匹が答えます。

「いやせんねぇ。いるのは…妙にヘラヘラした市丸サマと、無表情なウルキオラ様だけっす。…あ、市丸サマが店に入りやした。あれは…和菓子屋っすね」

格下らしい角の虚は、そう言って腕を組みました。
市丸サマとは、最近虚圏にのさばっている元死神のうちの一人です。奴らは新参者の癖に、我が物顔で虚圏を闊歩するマナーの悪い連中です。いつかとっちめてやろうと多くの虚は思っているのですが、護衛共々滅法強い為なかなかそうもいきません。
苦虫を噛み潰したような顔で、黒い虚は言いました。

「何してるんだ、アイツ等は…。まぁいい。美味そうな人間が居たら教えろよ」

餌探しを諦めて、黒い虚はゴロンとその場に寝転びます。
角の虚は再び地上を見下ろしました。




ある雪の日の事でした。
二匹の虚が、空中から現世を見下ろしています。
蒼い空は薄い灰色一色に染まり、吐く息がふわりと綿を作ります。
その空を彩る雪花を縫うように、裂けた穴から二匹は顔を出していました。
黒く大きな口を持つ虚が、言いました。

「美味そうな人間はいたか?」

長い角を額に生やしたもう一匹が、いつものように答えようとして不意に目を輝かせました。

「いやせ…いや、いました!気の強そうな碧目のガキと、巨乳の姉ちゃんっす!…あ、市丸サマと同じ店に入りやした。あの和菓子屋流行ってるんすかねぇ」

格下らしい角の虚は、そう言って首を傾げましたが黒い虚に殴られます。二匹して人間くさい動作をしてる場合ではありません。実に一ヶ月振りの狩りなのです。
黒い虚は身を乗り出しました。

「どいつだ?」

慎重に訊ねる黒い虚に、角の虚は痛む頭を押さえながら指差しました。

「ほぉ…なかなか」

久々の上玉二人に、黒い虚はごくんと唾を飲み込みます。舌なめずりもしてしまうのは、人間だった頃の名残でしょうか。多分ゴロツキかチンピラ出身に違いありません。

「どうしやすか?」

角の虚が訊ねます。

「そりゃお前、イタダくに決まってんだろ」

長い舌でべろりと口の周りを舐めて、口同様大きな手をワキワキと動かします。ナニを揉む準備でしょうか。イヤらしさしか感じません。

「アニキが巨乳、あっしがガキの方っすね」

それを見た角の虚が気をきかせました。が、再びがつんと殴られます。

「バカヤロウ!お前は女をヤれ!あの可愛いのは…俺が貰う」

どうやらそういう趣味の人のようです。いや、そういう趣味の虚というか。

「……」

あまりにも血走った目に、角の虚は何も言わずに地上に視線を戻します。
どうせなら女の方が柔らかいし食べでもあるし、特に文句はありません。角の虚は常識人でした。いや、常識ある虚でした。

「いいか?奴らが出てきたら、せーの、で飛びかかるぞ」
「うす!」
「…お、来た!いいか?行くぞ!…せーの!」

ばっ!と二匹が小雪舞う空中に飛び出した時です。
今まで顔を出していた穴とそっくりな穴が、突如真向かいに現れたのです。そしてそこから光の線が、二匹に向かって放たれました。
しかし地上ばかり見ていた二匹は、自分達に迫る光線に気付かず串刺しになって、

「「ぎゃ!」」

と声を揃えて消滅しました。一瞬のことでした。
役目を終えた光の線は、ぷつりと切れて白い空に消えていきます。





「ん?」

懐かしい霊圧を感じた気がして、日番谷は上空を見上げます。しかしそこには何もなく、ただ静かに降る雪が頬の上で溶けて行くだけでした。

「どうしました?隊長」

遅れて暖簾を出た松本が訝しげに訊ねますが、日番谷は首を横に振りました。

「…何でもねぇ。それよりさっさと帰るぞ。雪が酷くなりそうだ」
「はーい!でも珍しいですね。隊長が雪の中、わざわざ現世でお買い物だなんて」

松本は続けます。

「よっぽど、あの差出人不明の差し入れが気に入ったんですね〜」
「…るせぇよ」

いつも以上に仏頂面の日番谷とニヤニヤ笑いの松本は、揃って穿界門の向こうへ戻って行きました。


白雪がハラハラと舞う、ある冬の日の事でした。





- オワリ -




キ◎の旅&学園◎ノ風に。
楽しかった〜^^





2008/11/9 ユキ☆



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ