* いろいろ *
□ * 拍手小話集 A *
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* ふたりの計画 *
部屋に帰ったら、狐が一匹眠ってた。
やたらめったら気持ち良さそうに、ヒトの布団の上ででかい図体を丸めて眠る、一匹の…いや一人の男。
今日は珍しく、邪魔するヤツが顔を出さなかったから仕事の進みも順調で、だからこそ暗くなる前に帰ってこられたのだが。
まさかこんなところに侵入していたとは…、と日番谷は溜め息をついて戸を閉めた。
灯りのひとつも灯されていない寝室は、閉め切ってしまうと寂しいほどに薄暗い。
その中をそろそろと進み、枕元の行灯に手を伸ばした。
ぼぅ…っと小さな音を立てたそれが、部屋と市丸の頭をオレンジに照らす。
それが眩しかったのか、ヤツは「うー」と唸って顔を枕に押し付ける。その小さな訴えに、仕方なく行灯を文机の上に移動させると、男は満足そうに再び寝息をたてはじめた。
…そう来たか。と心中で呟き、日番谷は袖の中で腕を組む。
今日は珍しく早く上がれたし、たまにはこっちから声でも掛けてやるか、なんて思っていたのだが。
予想外の状況に、少し、いや大分面白くないものを感じつつ、小さな口をへの字に曲げた。
ここで起き出さないと言うことは、『相当疲れている』ということなのだろう。
ならば…と、日番谷は息をついた。
「…しょうがねぇ、な」
そう小さく呟いて、眠る相手に背を向ける。
そのまま来た道を辿り、襖戸を開いて。
「…メシ、誰誘うかな」
一言残して、戸を閉めた。
直後。
部屋の中から悲鳴がひとつ。
「…ちょ!日番谷さーん!?ボクはそないな子に育てた覚えはあらへんでー!?」
半泣きの市丸がスパーン!と戸を明ける。その正面で、日番谷は壁により掛かったままにやりと笑った。
「安心しろ、育てられた覚えもねぇから。つーか『疲れてる』んだろ?いいんだぜ?ゆっくり寝てて」
「寝てないもん!ちょっとしたお茶目やもん!それよりひどいわ、日番谷さん!ボクの計画が全部パァやんか!」
「はァ?何言ってんだてめぇ。不法侵入の上に狸寝入りしてたクセに」
ご丁寧にも寝返りうって、寝息までたてて。無駄に芸が細かいではないか。
しかし図々しい狐は言い分もやっぱり図々しかった。
「不法侵入ちゃうで!お邪魔します言うたもん」
「バカ野郎。俺は許可してねぇ!」
「ホンマひどいわ。『ギン起きて?ちゅ』ってするやろ、普通」
「…聞けよてめぇ。つーかしねぇよ普通!」
額に手を当てて溜息を付く少年の後ろを、市丸はぶうぶう文句を垂れながら付いていく。
そんな日常の光景を、すれ違う隊員達は苦笑を滲ませつつも見守るのだった。
- オワリ -
2008/7/27 ユキ☆
もう一本♪
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