どんなに美味しいケーキより、
どんなに素敵なプレゼントより。
☆ ☆ ☆
「隊長〜。そろそろ休憩しましょうよぅ」
「バカ野郎。さっきしたばかりだろうが!」
へにゃり、と机に倒れた副官に、忙しく筆を動かしながら少し早口のお説教。
それでもぐずる部下に苛々と顔を上げた時、ちょうど二本の時計の針がまっすぐ縦に繋がった。
カチ。♪♪〜♪〜♪♪…
どこから入手して来たのか知らないが、市丸が勝手に設置した仕掛け時計が、本日最後の音を鳴らす。
この時計、設定次第で曲を変えたり、鳴る時刻を指定する事も出来るらしい。
あまり年中鳴らせても、うるさいし隊員達の迷惑になる。
だから九時、十二時、三時、六時と三時間置きに一日四回だけ鳴るように調整して貰ったのだが、時刻を見なくても時間が解るのは案外便利が良いものだ。
何しろこの時計のおかげで、昼飯の時間を忘れたり、気がつけば夜中になっていることも随分減ったし。
「あ!もうこんな時間じゃないですか!終わりにしましょうよぅ、たいちょ〜!」
オルゴール効果にあやかっているもう一人の人物が、すすす、と背後に回り抱きつこうとする。あやかる、と言ってもコイツの場合、休憩と退室の時間を気にしているだけなのだが。
背後の副官を押しやりながら日番谷は寄せた眉間を少し開く。
時刻は六時。…丁度良い、頃かもしれない。
「俺はもう少しやっていくから、お前は上がっていいぞ」
そう言って再び筆を走らせはじめた上司の意外な一言に、松本は口を開き掛けて…、にやりとした笑みを浮かべた。
銀色の髪から覗く小さな耳が、ほんのり染まっていることに気がついたからだ。
(へぇ〜)
どうやら今日は、早く帰って欲しいらしい。
この後の予定を察し、素早く片付けると松本はさっさと執務室を後にする。
戸を閉める直前に見た上官は既にいつもと変わらぬ顔で書類を捲っていたけれど、何となく嬉しそうなのは気のせいではないはずだ。
あたしも呑みにでも行こうかしら。そんな事を考えながら廊下を歩いていると、前方から見知った男がやって来た。
「お疲れさん、乱菊」
「お疲れ様です、市丸隊長」
白々しく立ち止まって頭を下げると、相手は表情のわりに急いでいるのか、そのまま手を振って今まさに自分が出てきた戸の向こうに消えて行った。
そしてふたりが話し始めた気配を感じ、松本はその小さな幸せにくすりと微笑う。
「なんだかいいことありそうねぇ」
薄暗くなりはじめた空に向かってぐいーっと背筋を伸ばすと、心なしか軽い足取りで呑み仲間を探して歩きはじめた。
- オワリ -
何気ないことだけど、
一緒にいられることが一番の幸せに違いないvV
かづるんへ感謝を籠めて♪
お誕生日おめでとうーvV
2008/3/2 ユキ☆