* いろいろ *
□ * 拍手小話集 @ *
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こんなにも、キミのいる世界は美しい。
* あるひそかな、恋 *
少し先を行く銀色の髪が、陽に透ける。
そのたびに光を反射して、きらきらと美しく、しかしどこか儚い。
振り返らないその背中は、とても小さく、ひどく冷たく。
それはまるで、ボクを拒絶するようだと、小さく笑った。
そう感じてしまうのは、迷いがあるから。
浅ましい望みを、捨てきれないから。
――この世界を裏切り、赦されざる道を行くと決めたのに。
「市丸?」
唐突に。
目の前に、キミが。
ボクに背を向けていたキミが。そこにいた。
「……何ですの?」
咄嗟に、感情を覆う笑みが浮かぶ。
真っ直ぐな視線を虚実でかわす、己の癖に小さく笑った。
じっとそれを見ていたキミは、僅かに目を瞠り、次いで溜息と共に視線を落す。
そして伏し目がちの翡翠が、不安定に揺れて瞼の裏に姿を隠した。
その変化に、見透かされたかのようなざわめきを感じたが、そっと手のひらを握りやり過ごす。
たとえ何かを抱いていても、キミはボクに問い掛けないし、ボクはキミに語らない。
互いの心のうちを、暴く程の距離ではない。
「日番谷さん?」
もう、あと何度呼びかけることが出来るか解らない、愛しい名を唇に乗せる。
あの人の一言で、この些細な幸せさえも奪われる。
でもそれを選んだのは、自分自身。
そのための……、犠牲。
ふいに、俯いていたキミが、顔を上げた。
翳っていたはずの瞳は、キミの強さを表すように、くもりなく。
真っ直ぐに、ボクを射抜く。
「…何かあれば……、呼べよ」
―――俺を。
それだけだと言葉を残し、息を呑むボクの元から、キミは足早に去っていく。
その背中は、とても小さく、実に清廉で。
銀色の髪が光りを放ち、ボクはそっと目を細めた。
求める声に気が付いてくれたとか。
今ならば近づけるかもしれないとか。
過度な期待に心掻き乱されるほど、キミのいるこの世界は色鮮やかだ。
――それでも、
キミへの想いも心の闇も。何ひとつ捨てられない己に、ほんの少し、嘲笑いが零れた。
愛しさを伝える術のない、ボクの、密かな―――。
- オワリ -
2007/10/7〜2007/12/15 ユキ☆