* いろいろ *

□ * 拍手小話集 @ *
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* LESSON 1 *





俺は、如何にもという雰囲気が苦手だ。


嫌いなんじゃない。ほんと苦手なんだ。
男同士なんだし、ムードとかいいからひとおもいにやってくれ!と思う。

だけど、アイツはわざとこちらの反応を引き出して、楽しんでやがる。

俺はどうもそれが我慢できなくて、ついそういう雰囲気にならないように逃げてしまうんだ。



しかし。

いつもは「いけずやなぁ」等々言いながら逃がしてくれるのだが、今日は。



「ホンマ日番谷さんはデリカシーがあらへんなぁ」

どうしたことか、ぶつぶつ、という呟きが聞こえそうな調子で市丸が不平不満を言いだした。


何がデリカシーだ。慣れない単語使いやがって。


「うるせぇな…」

本を読む俺に、ぶつぶつ、ぶつぶつ。
「ムードがない」だの「せっかち」だのうるせぇっての。

そもそも女相手じゃあるまいし、何でそう雰囲気を出してくるんだ。




……てか、解るだろ?苦手なんだよっ。


何が苦手って、…あの、目が。

普段は狐目のくせに、そんな時ばかりじっと見つめてくるから…困る。



……あぁ、そうだよ。

苦手なんは、恥ずかしいからだ。



あの目で見られると、居心地が悪い。




「せや」

急に、市丸が良い事を思いついた!と言わんばかりに明るい声を出した。
こんな時はロクな事がない。経験上熟知している俺は、少々警戒しつつ顔を上げた。


「…なんだよ」

「苦手なんやったら、仰山して慣れたらええやん」

「はぁ!?」

なんでそうなる!


思った通りロクな事じゃない。
相手に肩を掴まれて正面を向かされる前に、慌てて顔を背けた。


「な?ええ考えやろ」

「どこがだ!」

嬉しそうに言う市丸に、俺は思い切り否定する。
しかし少し離れていたアイツが、俺の側に移動して来た。

こうなってくると「そんな嫌がらんでもええやないの」とか言って笑ってくれる…わけがない。

どうしていいかわからず、壁にもたれ掛かったまま目線だけは本に集中させるが、既に意味など理解出来ない。

市丸がこちらを見ているのは解るが、顔を上げるわけにもいかなくて、俺は文字の羅列を追い続けることで場を繋ぐ。



じっと見下ろしていた市丸の体が、本に影を落とす程近づいた。

そのまま、体格差にものを言わせて強引に来られたら敵わないのだが。こいつはそういうことはしないんだ。




無理矢理な事はしない。むしろ、もっと…、ずるくて。


「こっち、向いて?



……冬」


どういう意味で苦手なのかってこと、ちゃんと解ってる。

その上で、こうやって。




肌が粟立つ程、声が近い。

耳元で、優しく低く。痺れ薬のように。
滅多に呼ばない名を呼ぶんだ。


「……卑怯だ」

「何で?」


ふらふらと見上げれば、薄い、翠の眼が。



コイツは、無理矢理な事は、しない。

抗えないって知ってて、ただ、誘うだけ。



頬に触れる手が冷たい。
こめかみに触れる唇が、俺の羞恥をじんわりと煽る。

無意識に握り締めた手を包んで。


「……―――――」



囁きに。
背筋が、震えた。



そして楽しそうな唇が、下りてくる。






俺の苦手な

……甘いくちづけ。






- オワリ -


拍手ありがとうございました^^


2007/09/10 ユキ☆

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