* パロディ *

□日番谷誕生日記念 社会人×社会人
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市丸誕生日記念 社会人×社会人 の続き。

SE=システムエンジニア。2人とも業務アプリの設計者です。
専門用語が幾つかありますが、雰囲気で読んで下さい(汗)

それから市丸さんと日番谷さんの視点が変わるところで改ページしています。

では、市丸さん視点から始まります!









デバッグに集中していた顔を上げると午後8時を回っていた。

夏前から手がけていた物件も今月頭に稼動を迎え、客先のオペレーションもバグ回収も落ち着きはじめた月後半。
そろそろ月末処理とシステム変更に意識を向けようと思いつつも、連休直前の金曜日にガッツリ仕事をする気にはあまりなれない。
しかも一息入れて辺りを見ればいつもと違い人影もまばら、とくれば市丸の集中力が急速に下がったのも無理はなかった。

おそらくは、明日からのクリスマス本番に向けて社員達はこぞって帰宅したのだろう。
恋人のいる人はプレゼントやデートで忙しいし、家族持ちはサンタの準備に余念がない。
たとえ予定がなかったとしても、テレビの後押しが最高潮を迎えるこの時期にパソコンに噛り付くのは、年明けから稼動を迎えるメンバーぐらいになってしまう。


(ボクも先月は殆ど休めなかったしな…)


ひと月前の自分を思い返し、同情と激励を込めた視線を後輩達に送るといそいそパソコンをシャットダウン。
彼らを前に帰り支度をするのは気が引けるが、やる気がないまま会社に残るほど市丸は仕事が好きなわけでも暇でもない。
…いや、週末を含め予定は全くないけども。


(なんか…寂しい人生やなァ)


必死に仕事をこなして家に帰っても、可愛い彼女が迎えてくれるわけでもない。
別段モテない方ではなかったが、ここ数年仕事に忙殺されて『お付き合い』自体ご無沙汰になってしまっている。


(あかん。気がついたら三十路とか十分ありえるで…!)


結婚どころか恋人もいない自分を想像し、婚活ならぬ恋活をせねばと来年の抱負を胸に誓う。
そんな市丸の背後から声が掛かった。

よく知った、同じシステム部の人間。同期の日番谷だった。


「上がりか?市丸」
「うん。なんかやる気のうなってしもて。日番谷さんはまだ頑張るん?」
「いや…。俺もそろそろ帰ろうと思う」


何となく歯切れの悪い言い方が引っかかった。

日番谷と言えば小柄ながらも仕事の出来る(身長が関係あんのかと怒られそうだが)、冷静沈着タイプの人間。
常に眉間にしわを寄せ、大きな瞳はやや半眼で大抵不機嫌そうな顔をしている。

実際話してみると怒っているわけではなく、…要は童顔を気にして毅然とした態度を心掛けているうちに、そういう表情になったらしい。

それを知ったとき、一層この真面目な同期を好きになった。と言っても当然仕事仲間としてではあるが。


「何かあったん?複雑そうな顔してはるけど」
「そういうわけじゃなくて、……いや、あるといえばある」
「どっちやねん」
「…市丸、黒崎って知ってるか?」
「黒崎?営業の?」


きょとんとする市丸に小さく日番谷が頷いた。

黒崎一護。

数年前に中途で入ってきた同じ歳の(人の事は言えないが)派手な頭をした男。何度か仕事をしたこともあるが、気さくで面倒見の良い男だったはず。
しかし目の前の日番谷は困ったように眉根を寄せており、それに一層興味を引いた。


「知っとるけど、黒崎がどないしたん?」
「この後メシに誘われた」
「メシって飲み?明日休みやし行ってくればええやん」


仕事終わりに飲みなんて良くある話し。別におかしなことじゃない。
ただ黒崎と日番谷がそんなに仲が良いとは知らなかった。

しかし続いた言葉で歯切れが悪い理由が判明する。


「いや、飯だ。イタリアン。しかも俺と黒崎は殆ど話した事がない」
「はァ!?イタリアン!?」
「ばか!声がでかい!」


思わず声を上げた市丸に慌てて日番谷が辺りを伺う。

追い込み真っ只中の後輩達が『イタリアン』というクリスマスらしい単語に恨めしげな視線を送ってくる。
それに「すまん」と手を合わせ、日番谷は市丸に向き直った。


「そう、イタリアン。ロクに話したこともない男同士で、仕事終わりにイタリアン。しかも時期的に…ありえねぇだろ?」
「確かにクリスマスデートみたいやな…。でも行くことにしたん?」


眉根を垂らした日番谷の困り顔が珍しい。
状況も表情も面白くてニヤニヤ笑っていると、いつもの皺が刻まれた顔で睨まれてしまった。


「ごめんごめん。でも行きたくないなら断ったらええやん。大して知らん相手なら特別失礼でもないやろ?」
「俺もそう思って遠慮してきたとこなんだが…」
「…日番谷さんって、ゴリ押しに弱そうやもんね」


ぐっ、と言葉を詰まらせる日番谷に市丸は苦笑する。
電話口でお客さんにお願いし倒されている時と同じ表情で、日番谷がため息をついた。

自分が少し頑張ればどうにかなる、という計算が立つと相手の要望を飲んであげてしまう日番谷の諦め顔に、気がつけば助け船を出していた。


「それ、2人でって誘われたん?」
「?そうは言ってなかったが」
「何でイタリアンになったん?」
「よく解んねぇけど…なんとなく」
「せやったら、一緒なら何でもええんと違う?」
「かもな…って、市丸?」


話の終着点がよく解らず日番谷が首を傾げる。
そういう可愛い仕種を無意識にするから勘違いさせるんやないの?と教えてやる必要がありそうだ。


「なら、イタリアンやなくて飲み会にしたらどう?」
「飲み会か。でも今から何人捕まるか…」
「ボクでよければ参加しよか?」
「…!本当か!?」
「うん、残ってる連中何人か誘お。忘年会にしてしまえばさすがに諦めるやろ」


そこにタイミングよくいつもよりきっちりスーツを決めた(ように見える)黒崎が開発室のドアを開けた。
お目当ての日番谷と一緒にいる市丸に少しいぶかしんだ目を向けて、そのまま戻ろうとした黒崎を逃がすまいと声を掛ける。


「黒崎さん、これから飲みにいかん?今日番谷さん誘ってるとこなんよ」
「…いや、俺らは飯食いに行こうと思っててさ」
「なら飲みにせえへん?ほんならボクもお邪魔出来るし」
「は、はぁ!?何でだよ」
「そっちのチームも一緒に行こ。たまには息抜きせなあかんよ。明日ちょっと見に来たるから」
「おい!」


すかさず、ホワイトボードの前で顔を突き合わせ、問題点を洗っていた立ち上げ間近のチームに声を掛ける。
すっかり疲れ果てていた後輩達は直ぐ様顔を輝かせた。


「本当ですか!?ありがとうございますー!!あ、もちろん先輩の奢りですよね!?」
「ううん。黒崎さんの奢りやって」
「何でだよ!自腹に決まってんだろ!……んん!?」


話に乗ってしまった黒崎がハッとするが時既に遅し。
追い込み真っ盛りのやつれた連中が雪崩れ込み、なし崩し的に二人きりのイタリアンから大人数の居酒屋にチェンジされてしまった。


「…!」


事の次第を呆然と眺めていた日番谷が、弾かれたように市丸を見る。
その視線にケラケラと笑っていた市丸が悪戯っぽく見返した。




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