* 短編小説A *

□ギンヒツ長文A 更新中
2ページ/4ページ



(はぁぁ〜、無駄骨やったわ…)


瞬歩で六番隊舎まで移動して来た市丸は、出かけのご機嫌な姿とは裏腹に、がっかりと肩を落としていた。
というのも目当てのお子様死神、本日から六番隊副隊長引率の元現世に旅立っていたのだ。

こっそりと見に行こうか?と本気で悩んでみたものの、朽木の霊圧が消えたのを感じ仕方無しに諦める。
真面目な六番隊長は、新人の初討伐には可能な限りお忍びで付いて行くことを市丸は知っている。

勿論朽木にばれようがお構いなしなのだが、ここは隊長に華を持たせ、邪魔をするのは止めたというわけだ。
……珍しいこともあるものである。


このまま廊下を進んでいては部下に見つかりやすいため、ひょいと向かいの隊舎の屋根に上ると市丸は軽く跳んで行く。
折角出てきたのだ。当然隊舎に戻る気はない。

屋根の上は遮る物がない為、下よりは幾分暖かい日差しが降り注ぐ。
緑は明るく、空は青く。風に含まれた花の香りが心地よい。
そんな快晴。


(そういえば、あのコどうしとるやろ)


昔似たような天気の日に出会った印象的な子供を思い出し、市丸は笑みをこぼす。
十年ほど前に流魂街で出会った子供は、霊圧も高く、自分と似た髪色と翡翠の瞳を持つ、くるくる変わる表情が愛らしいコだった。

毎年入隊してくる新人を全員チェックしているわけではないが、今の所あのコはいないように思える。
何しろ銀髪に緑眼は珍しい。いれば気が付くはずだ。

第一出会った時の姿からして、すぐに統学院に入学できる年齢ではないだろう。
今頃良くて入学したて。まだ流魂街にいたって不思議ではない。

あの後も訪ねてみようとは思っていたのだが、長期の現世任務を任されたり、色々と用事が重なっているうちに行きそびれてしまっていた。
そうこうしている内に隊長に昇格してしまい、常に副官が眼を光らせている為、副隊長の頃のように昼間の散歩も減る始末…。


しかし。やがて市丸は何とはなしに願を掛けるようになっていた。
自分からは探さない。でももし、あのコにまた出逢えることがあったなら。



次は仲良くなろう。



興味以上を抱けない自分にとって、特別になるかもしれない相手。
出会いも別れも楽しまなければ。

興味を引かれたのは事実だけれど、再開できないのであれば、それは自分が意識を向けるほどではなかったということ。


死覇装の袖に指先まで隠し、当初の目的であった新人のことなどすっかり忘れ、昼寝場所を探してぴょんぴょんと跳ぶ市丸は知る由もない。
霊圧制御をされることがなかったお子様死神が、現世にて季節外れの大寒を巻き起こしている事を…。






☆ ☆ ☆




巷では、自分は天才児だの神童だのと呼ばれているらしい。
自分達よりも格段に秀でた子供に向ける呼び名としては、単純で解り易い、と冬獅郎――日番谷は思う。

自分達とは違う。比べる相手ではないから安心できる。


……馬鹿らしい。


思えば日番谷には、友人と呼べる相手がいない。唯一親しくしている幼馴染の少女がいるが、友人とは違うだろう。
真央霊術院時代は学院の歴史に残る天才と呼ばれ、人の和に入ることが殆どなかった。

誰しも同程度の者と連みたがる。落ちこぼれは排除し、格上過ぎると敬遠される。
優秀であるが故に、日番谷は常に孤独だった。


そして、それはココでも変わらない。


現在日番谷が席をおいている場所、瀞霊廷。死神達が集う街。

真央霊術院を卒業し、護廷十三隊に所属する死神となったのは、つい先日。
そのわずかな間に、日番谷はすっかり興醒めしていた。

学院を優秀な成績で卒業して来た者達の所属する場所だから、煩わしい視線から開放されるのではと、少し期待していたのかもしれない。
だが、ここでも自分が異端者であると思い知らされるのに、数刻すら必要なかった。


興味本位で様子を伺われることも。
子供のくせにと陰口をたたかれることも。
自分達とは違う日番谷を嘲りながらも、将来有望だからと付きまとう奴も。

今までよりずっと多い。
あんなに嫌だった学校の方が、まだマシなのでは?と思える程に。


嫌気が差しつつも、それも当然なのかもしれないと日番谷は思う。
護廷十三隊は実力の世界。
実力さえあれば、今までの上司を部下として使うことが出来る。
自分の地位を脅かしそうな日番谷に、優しく接する余裕のある者は余程の実力者ということだろう。


(まぁやりがいもあるけどな…)


それだけ評価されているということだ、と割り切った日番谷に、思いのほか早く実力を見せる機会がやってきた。



「討伐、ですか…?」


通常であれば、新人は隊の末席に名を連ねる事となる。
当然見習いから始まるのだが、日番谷の場合、下位とはいえ席官。見習い期間ゼロではじまってしまった為、清掃や地獄蝶の世話など、あらゆる雑務から免除されている。
その為知らないことも多く、本人も世間知らずなところがある事を自覚しており、後学のために時折同期達の業務を覗き見していた。

知らなければ管理は出来ない。携わった経験がないのであれば、その姿を見て勉強する。
天賦の才に隠れがちではあるが、日番谷の優秀さはこういった真面目さの上に成り立っている。

隊務の合間の見学を終え、戻ろうと廊下を歩いていた際に出会った副隊長が、突如話し掛けてきた。それが現在のことである。
六番隊の担当地区に出る虚が最近増えているとのことで、日番谷等下位席官が討伐に向かうという話しだった。


「うん。学院での実習レベルの虚だから大した事はないと思うけど…」


正しい実力を計る為なのだろう。今回日番谷が入隊してからの初討伐となるため、副隊長も同行するという。
どんな力をもっている虚か解らないが、自分的には負ける気はしない。だが人間関係上面倒な事にならない為にも、副隊長の同行と言うのは日番谷にとって有難かった。


了承の意を伝え出発の日程を尋ねると、今すぐに、との応えが返る。
基本的に緊急を要する討伐は事務仕事よりも優先される為、こういった決定は思った以上に多いようだった。
しかも地域担当の手に終えないと言うのならば尚更なのだろう。


出発のために隊舎へ急ぐ副隊長の後ろを追いながら、日番谷は多少の胸騒ぎに眉根を寄せた。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ