* 短編小説A *

□ギンヒツ長文A 更新中
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副隊長として他隊の隊長と顔を合わせる立場になっても、唯一会えなかった隊長がいる。
理由としては体調不良が殆どだったが、恐縮しきって青ざめた副隊長の顔を見ればサボリなのは一目瞭然だった。

その隊長、噂によると遊び人で、へらへらしてて、不真面目な女ったらし。
潔癖なうちの隊長とは相容れなくて、でも実力は折り紙つきというその変人。
自分の嫌いなタイプであったが、どんなヤツだろうって少なからず気にはしていた。

でも、まさか。


「キミ、えらいちっこいなぁ。前から何番目やった?」


目の前にしゃがみこんだ三番隊隊長に、遠い昔と同じ顔でニィ、と笑われるとは思わなかった―――。




それが……、理想が崩壊した二度目の出会い。






☆ ☆ ☆




冬獅朗と市丸が出会ってから十数年。
五番隊副隊長であった市丸が、三番隊隊長に就任してから更に数年後。
自分や志波海燕程の速度で卒院、護廷十三隊への入隊を果たした天才児が、過去数名しか例の無い入隊同時席官入りを成し遂げた年の事である。

それだけでも話題に事欠かないと言うのに、その新人…。


「…子供?」


最近上位席官へ上がってきた台頭著しい部下の言葉に、市丸は少し興味を示す。
自分の振った話題が上司の関心を引いたことにほっとしつつ、吉良は言葉を繋げた。


「ええ、まだ年端も行かぬ少年だそうです」


隊長机に湯飲みを置いて、吉良は言う。
吉良の同期の少女の幼馴染と言う少年は、あっという間に院を卒業し、この春を待たずして六番隊の下位席官になったのだと。

その少女と言えば、昔藍染と市丸が助けた少女に違いない。
九番隊の上位席官となった檜佐木も、その後輩に当たる吉良達3人の出世速度も恐ろしいものがあるというのに、その少年は更に上を行くと言うのか。


(そんなに急いでどこ行くんやろねぇ?)


自分の事は棚に上げ、見たこともない少年を思い描いて市丸はにんまりと笑う。
その不気味さに怯みつつ、吉良はさりげなく書類を湯呑みの横へ置いた。

いざ仕事を始めると早いのだが、如何せんこの隊長、事務仕事が大嫌いでことあるごとにサボる為、副隊長である吉良の直上司は最近げっそりとやつれていた。
見るに見かねて吉良が隊長印が必要なものとそうでないものを分類し、最低限の書類を市丸へ届けることになったのだが。

サボり魔の隊長を宥めすかし、興味を引き、現場仕事を織り交ぜつつ最近はなんとか判子を貰っていた。
今日はその興味を引く戦法で印を頂くつもりだったのだが…。


「んじゃボク、その神童クンに会うてくるわ」


後はよろしゅう〜と鼻歌交じりの声が聞こえた時には時既に遅し、市丸は執務机からカンペキに姿をくらませていた。
その早業と言ったら、瞬く間、という言葉がぴったりな程…。


(あああああ……)


「たいちょぅ〜〜〜〜〜!!」


本日期限の書類の束を目の前に、吉良の情けない声が三番隊に木霊したのだった…。







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