* 短編小説A *

□ギンヒツ長文@ 出会い編
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執着なんてほんまになかった。
あったのは、ほんの少しの興味と悪戯心だけ。


初めて会うた時は、えらいちっこい子が入ってきたなぁと思ったもんや。
せやからつい、死神どころか霊術院にすらおらんやろ、と思って目の前に座り込んだんよ。


「キミ、えらいちっこいなぁ。前から何番目やった?」


(一緒にいた部下曰く)失礼な発言にむっとしたキミは、眉間の皺を一層深くしてボクを睨むように見上げたんや。




それが、二度目の出会い。






☆ ☆ ☆




快晴を表す言葉の中に、抜けるような青空、という言葉があるけれど、今日はまさにそんな日だなと冬獅郎は思う。
青い空にたゆたう白い雲。
爽やかな風に渡り鳥が身を躍らせ、それを追いかける様に草木が揺れる。
そのたびに香る花々に、否が応でも春を感じさせられる。


(………ちぇ)


家の脇にそびえ立つ大木に寄りかかり、冬獅郎はつまらなそうに唇を尖らせた。
子供というのは、晴れているだけで元気になれる。それは冬獅郎も例外ではない。
なのに仏頂面をしているのには、理由があった。

それは昨日、今まで当たり前のように側にいた幼馴染が、死神達の住む街、瀞霊廷へ行ってしまったから。
特に約束などしたわけではないけれど、自分達はずっと一緒のはずだった。

“桃と、ばぁちゃんと、おれ”

いつか転生してばらばらになってしまうとしても、それまではずっと一緒。
桃だってばぁちゃんだって、それを望んでいると思ってたのに――。


死神になると言い出した桃にも、それを認めたばぁちゃんにも、腹が立った。


春は出会い。春は別れ。

桃の新しい出会いのために、置いていかれたおれとばぁちゃん。
この関係を望んでいたのは自分だけだったような気がしてきて…。
寂しさと悲しさと悔しさが入り混じり、子供は泣くまいと鼻をすする―――そんなある晴れた日の事だった。
冬獅郎目掛けて、木の上からのん気な声が降って来た。


「どないしたん?」
「ひゃっ!?」


初めて聞く大人の声に、冬獅郎はびくんと身体を跳ねさせた。
突然家の敷地内、しかも自分の真上から声を掛けられれば驚くのも無理はない。しかし冬獅郎が仰天したのはそこではなかった。
ばぁちゃんは家の中。だからここにいるのは自分だけ。
その確信が覆されたのだから、驚きも半端じゃなかった。


「…誰だ?」


物心ついた頃から、誰かが側にいればすぐにわかる。それは桃と自分の得意技だった。
それが全く気がつかなかったどころか、誰かいる、と解っている今でもまるで気配を感じない。
霊圧、という言葉すら知らない子供は、慎重に木の上を見上げ、次に一歩退いた。


(……しに、がみ)


ごくん、と喉を鳴らす冬獅郎の目の先で、自分の嫌いな死神がニヤニヤと笑っている。数回しか見たことがないけれど、あの真っ黒な着物を見間違えるはずがない。
正確にはその職種を嫌悪しているだけなのに、混乱していた冬獅郎には、木の上の男が自分から幼馴染を奪い取った元凶にしか見えなかった。
見開いていた瞳をすがめ、ぎりっと歯を噛みしめる。


『こいつを倒せば桃は帰ってくる』


なんの根拠もない想いに囚われて、冬獅郎はその視線に力を込めた。






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