* 短編小説 *

□ * 帰る場所 〜まじない *
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「サスガ十番隊。統制がとれてますなぁ」


不意に前方から掛かった声に、日番谷を顔をあげる。



「全員無事に戻った。…そっちはこれからか?」


揶揄するような響きを無視し、日番谷はへらへら笑う男を見上げる。



散歩に行くような気軽さで立つ市丸はともかく、その背後に控える彼の部下達は、皆一様に緊張した面持ちで立っている。

そうでなくとも、穿界門の側で会えば、現世に降りる以外にないのだが。



先に門に行っとり、と市丸が背後に声を掛け、日番谷も同様に隊舎への帰還を命ずる。


彼らが全員その場から消えたことを確認し、市丸は日番谷の頬に指を触れさせた。





出立時にはなかった傷を、ゆっくりと長い指がなぞる。



「…大した事、ねぇから」



視線を頬に感じ、無駄だと解りつつも声を掛ける。



既に血は止まり、横一本に走るその傷は、見た目ほどには深くない。

四番隊の手に掛かれば、あっと言う間に治るだろう。




だからこの目の前の男に見つかる前に、治療して貰おうと思っていたのだが。



「さっきの子ぉやな?」



一部始終を見ていたのだろう。へらへらとした表情を仕舞いこみ、市丸はじっと見つめてくる。



珍しく見開いた瞳も、感情の篭らぬ声も、抑えた心情を溢れさせるには十分で、日番谷は少しだけ息を呑んだ。

しかしその怯んだ姿が相手の言葉を肯定したも同然で、日番谷は反射的に市丸の羽織を掴んでいた。



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