* 短編小説 *
□ * 泡沫<うたかた> *
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* 泡沫<うたかた> *
そん時までキミんこと、単なる気難しい顔した天才児ぐらいにしか思ってへんかった。
でもほんの何気ないボクの言葉に、キミが笑ったんや。
そんだけや。そんだけなんやけど、いっつも難しい顔しとる子が笑てみぃ?…どき、ってなるやろ。
(こんな顔して笑うんやなぁ…)
そう思ってしまうやろ?
あんまりキレイに笑うもんやから、ボクもつられて笑ってしもて。
そしたらキミが
『お前。そんな顔して笑うんだな』
そう言って、にっと笑ろうたんや。
ちょっとキミ、そらアカンやろ…。
陳腐な言い方やと思うけど、大きさの違うふたつの歯車が一瞬かちって合わさったようで、それが無性に気持ち良えって思ってしもた。
まったく噛み合わないキミとボク。
でも時々、こんな風に笑い合えたら良えなぁ。なんて思ってしもた。
好きって多分、こんな事からはじまるんやろね。
気になりはじめたらきっともうお終いで。
あとはごろごろと転がってくだけ。
転がるたびにあれやこれやとくっついて、気が付いたらうんと大きゅうなっとって。
戻りたいとすら思えない、今のボクみたいになってしまうんやろね。
でも…でもなぁ。
ボクとキミの間には、大きな大きな溝がある。決して飛び越えられないスキマがある。
いつになるか解らんのやけど、遠い昔にしたあの人との約束は、果たさなあかんもんやから。
どんなに好きでも、ずっと一緒にはいられへん。
好きやと囁いて、煙たがられても傍にいて、大事に大事にしとったら、いつかまたあんな風に笑ってもらえるんやろか。
そんな希望を持ちたくなるけど、一度大切にしてしもうたら、手放すなんてよう出来へんわ。
≪今だけ傍に≫なんて言葉しか持てへんのに、ココロなんか見せられへんよ。
「何やってんだ?市丸」
散歩に行こうと騒ぐもんだから付き合ってやったというのに、肝心の相手は十数メートル後ろで立ち尽くしている。
陽を浴びてきらきらと輝く水面を見つめていた市丸は、その声にゆっくりと振り返り。
「なーんも」
愛しい少年ににっこりと笑った。
だから、なァ、
日番谷さん。
泣きたくなるこの想いは
水面に映る、ボクだけの恋。
- オワリ -
3333HIT記念のお礼として捧げます。
ちまき様へ感謝を込めてvV
2008/1/31 ユキ☆
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